72:福岡県民、ツッコミたい。
エリアスが生まれて一年。
出来ることがどんどんと増えてきた。
つかまり立ちでガンガンに歩きまくっている。
ハイハイに至っては、引くほどに高速移動だ。
「え、エリアス⁉」
いつもは何かに掴まって歩いているエリアスが、手放しでぼーっと天井の隅を見つめている。
そして、右足をちょっと上げてダンッと踏み出し、左足をちょっと上げてズダンとまた踏み出す。
視線は天井の隅に固定。
ツッコミたいことが大渋滞すぎてアワアワした。
「まぁ、エリアス様! お一人で立てましたわね。お上手ですわ」
「おん! それね!」
「エリアス様、何を見てるんですかね?」
「おぉん。それもね……」
「歩き方が激しいな」
「あ、ロイ」
気づいたらロイまで参加して、エリアス見学会が行われていた。
「きっと数日の内には、クラークと二人で練り歩きが始まりますね……」
「ぶふふっ! それはそれで楽しそう!」
乳母のセリーヌさんが一番大変そうだけど。
相変わらずなるべく自分で育児はするものの、ところどころはセリーヌさんたちを頼っている。
御婦人方のみで行われるお茶会や、それぞれの派閥などで行われる夜会などに参加するようにもなった。
今年の夜会は妙に多く、社交シーズンが始まってまだ半月なのに、既に五回目だとロイが嘆いていた。
どうやら跡取りが出来ると、夜会へのお誘いも増えるらしい。
なぜだ。
普通逆に遠慮するんじゃないのか。
そして、今まで言えなかったが、新年が四月なのも謎い。一月があるんだから一から新年にしようよ。
「不思議な考え方だなぁ」
「こっちが不思議やし!」
「跡取りが出来たということは、縁続きの示唆をな……」
「まだ一歳なのにお見合いの予約⁉」
まさかの理由だった。
因みに私はまだお茶会に二回と、夜会に一回しか参加していない。
「明日は私も行かなきゃなんよね?」
「あぁ。国の有力な貴族の一人で、騎士団に大きな出資もしてくれている家なんだ。たぶんハンスとマルティーナも来るぞ」
「……一緒に?」
「た、たぶん」
最近、二人の距離がググッと縮まっている。
主にマルティーナがグイグイ行って、副団長が諦め気味な対応ではあるけれど。
「ハンスは…………まだ、カリナが好きだから」
「ええ? そうなん⁉」
「……なんで、ちょっと嬉しそうなんだ? ん?」
「いや、何か可愛かなぁと。腹黒のくせに」
「…………なんだろうか。ちょっとだけハンスが可哀想になってきた」
なぜに急に同情しだしたんだ。
理由を聞いても、ロイは私には理解できないと言うばかりだった。
教えてくれてもいいのに。ケチめ。
次話は本日21時頃に投稿します。




