70:福岡県民、すれ違う。
こちらに向かってくるロイの顔が怖くて慌てて謝ると、ロイがぐっと目を瞑って悲しそうな顔をした。
「最近…………」
ロイが何かを言おうとして黙った。
私の目の前までくると、ゆっくりと深呼吸をし、頬に手を添えてきた。
「最近、カリナはずっと俺の顔色を伺ってるよな?」
「っ!」
「俺は、そんなに怯えさせるほどの何かをしたのだろうか? 気付かないうちに……」
私が勝手に怯えているだけなのに、悲しそうな顔をさせてしまった。
ロイが頬を撫でるのを止めて、私の手を引いて主寝室へと向かった。
横並びでベッドに座ってポツリポツリ話す。
体力もメンタルも結構限界なこと、手助けがもっと欲しいこと、ロイと触れ合いたいことも。
「――――もっと早く言って欲しかった」
「ワガママ言いたくなかった。ロイを……困らせたくなかった」
「なぜそうなる! 俺たちは夫婦だろ? 俺はカリナの夫だろ?」
「うん」
「…………頼ってくれよ」
またロイの大きくて深い溜め息。
「ごめんなさい」
「カリナ、謝って欲しいんじゃないんだ。頼ってくれよ……頼むから、俺が手を出していいという合図を出してくれ。じゃないと…………」
私の自尊心を傷つけてしまう。だからずっと我慢していた。
そう言われて、涙腺が崩壊した。
ロイはずっと待っていてくれた。
「どぅぉいぃ……」
ロイ、と言いたかったのに鼻水できちんと話せなかった。
「ほら、鼻をかめ」
「うん」
ティシューを受け取って、ブジュゥゥと豪快な音で鼻をかんでいたら、ロイがクスクスと笑い出した。
「カリナ、覚悟しろよ?」
「へ?」
ベッドにドサリと押し倒され、両手を頭の横に縫い付けられた。
「ロ、ロイさんんんん?」
「俺がどれだけカリナを愛しているのか、分からせないといけないな」
「あっ、ちょ、ん――――」
ロイの甘く刺激的なワカラセ、えげつなかった。
厚い胸板に閉じ込められ、深い深い眠りに落ちて、驚くほどによく寝てしまった。
起きたら翌日のお昼を過ぎていた。
「ん。起きたな」
「ロロロロイ、仕事っ」
「急ぎのものはないから、今日と明日は休みを取った」
「……ごめん」
「カーリーナー? そこはありがとうだろ?」
困ったような笑顔でそう言われて、ハッとする。
また謝ってしまった。
「ありがと」
「ん。飯の用意をさせる。今日はゆっくりと二人、ベッドの上で過ごそうな?」
「うん! …………ん? うん?」
お腹が減っていたので勢いよく返事したが、後半の言葉が何か変だった。
二人、ベッド、過ごす?
リリーさんがご飯を持ってきてくれて、ベッドテーブルを使って二人でのんびりと軽食タイプのお昼ご飯を食べた。
エリアスは、リリーさんとエマちゃんが責任を持ってお世話してくれるらしい。
ありがとうと伝えると、ゆっくり休んでほしいと微笑まれた。
みんなが優しくて、心がポカポカとした。
次話は、本日19時頃に投稿します。




