69:福岡県民、育児に奮闘する。
エリアスが生まれて半年。
一人での育児は無理だと悟った。
世のお母さんたちって凄い。
短時間での授乳、おむつ交換、よくわからないギャン泣き。
しかも離乳食まで始まり、泣く理由の幅がどんどんと増えていく。
「おおぉ? おむつでもお乳でもないの⁉」
なぜに海老反りで泣いてるのか、全くわからない。
とりあえずベビーベッドから抱き上げ、縦にして背中を擦ってみる。
「んにゃぁぁ…………へひゅ」
「お? 泣き止んだ」
「寝ぐずりでしょうねぇ」
「素直に寝ればいいのにぃぃぃ」
「アハハハ」
なぜかエマちゃんに爆笑された。
エマちゃんの母であるリリーさんにもくすくすと笑われてしまった。
「もー、なんで笑うの!」
エリアスが生まれて、小声で騒ぐという謎の技術を会得した。
他にはお乳をあげながら寝たり、座ったまま寝たり、ご飯を食べながら寝たりという特殊能力も得た。
「カリナ様、限界を迎えられる前に、ちゃんとお申し付けくださいね?」
「うん」
なるべく自力でと言っていたが、週一だけでもガッツリ眠る時間が欲しくなってきた。
ロイは乳母を雇おうかと言ってくれたのだけれど、断ってしまっていた手前、お願いし辛い。
そして、ロイまで寝不足になってしまうのは仕事に差し支える、そう思って寝室を別にしたせいもあり、色々と拗れているというのもある。
「おかえりなさい」
「ん」
ロイも育児にしっかりと参加してくれている。何なら私よりもテキパキと対応している。
仕事から帰ったら、エリアスを抱き、額にキス。
私にはなし。頬をそっと撫でられるだけ。
「今日はどうだった?」
「ゴロゴロ転がって遊んどった。ハマってるらしかよー」
「ふっ。なかなかヤンチャになりそうだな」
「ねっ!」
会話は普通に楽しくしてるし、一緒に笑いあいもする。
でも、触れ合いが全くなくなった。
それが、少し…………いや、とても寂しい。
今日の夜はリリーさんにお願いして、エリアスを預かってもらうことにした。
ロイが私とエリアスの寝室におやすみを言いに来る前に、ロイの執務室に向かった。
「ん? 一人か。どうした?」
机で書類を読んでいたロイが顔を上げた。
私一人だと分かった瞬間に笑顔から真顔になる。
それだけで心臓がギュッと締め付けられてしまう。
「あんね、今日こっちで寝てもよか?」
「構わないが……エリアスはどうした?」
リリーさんに預けたと言うと、方眉を上げて不可解そうな顔をされてしまった。
声はいつもより低い。
「…………だめならよかと」
「構わないと言ったよな?」
「っ……だって、なんか怒っとる」
「ハァ」
やばい。
私、めんどくさい女になってる。
ロイがくしゃくしゃと髪を掻き混ぜて、書類を引き出しに雑に仕舞うと、こちらに向かってきた。
「ごめんっ」
――――怒らせた!
次話はお昼頃に投稿します。




