68:福岡県民、名前を決める。
スポンと産まれた赤ちゃんは男の子だった。
頭のてっぺんだけに生えたくりくり金髪と、これまたくりくりの空色の瞳。
産まれたばかりの赤ちゃんで、まだまだ顔とかハッキリとしないはずなのに、なぜかロイにそっくりになりそうな予感。
胎盤排出も無事終わり、満身創痍だけど興奮状態でもあり、何だかハイテンション。
「イケメン! うあー、かわいかぁ!」
先程からドアがコンコンコンコンとうるさいが、私は息子を愛でたい。
ぷにぷにのほっぺをツンツンしたりと忙しいのだ。
「カリナ様、そろそろロイ様を……」
「ん? あ、入れていいよー」
エマちゃんが小走りでドアを開けに行くと、同時にロイが飛び込んできた。
「カリナ――――っ⁉ その子がっ?」
「男の子だったよー」
「っ! …………ありがとう」
ロイがベッドサイドに膝を付き、王族に忠誠を誓うときのような最敬礼をした。
ウルッとした瞳で見上げてくる。
なんかちょっとエロい。
「ロイ、抱っこする?」
「あぁ、ぜひ!」
息子をロイにそっと渡すと、危なげなく抱いた。
そういえば、ハンス副団長のお世話とかもしてたって言っていた。何年経っても身についたままのスキルらしい。
「ロイ、これからいっぱい教えてね!」
「ん? あぁ、任せろ」
なんと頼もしい旦那様だろうか。
ハイスペックなイケメンだ。
息子にお乳を与えつつ、名前の相談をしていたが、一向に決まらない。
理由は、ロイがどうやっても私の名字も使いたいからとかいう、謎の拘りを言い出したから。
顔を見てから決めようと言っていたけど、先に候補くらいは出しておけばよかった。
「やだよ! ミドルネームがタナカって、なんか変だって!」
「そうか? 『タナカ』って可愛い響きだが」
可愛くない。何も、可愛くない。
全国で五つの指に入れるほどに多い苗字である。
可愛さなど欠片もない。
「やだ!」
「んむ…………エリアス」
「エリアス!」
爽やかな男の子みたいなイメージのいい名前だ。
「気に入ったか?」
「うん!」
やっとこさ決まった名前を、息子――エリアスに呼びかける。
産まれたばかりで、分かるわけはないけれど、それでも名前を呼んでしまう。
――――いっぱい呼ぶからね。
エリアスの頬にキスをすると、ロイも同じようにキスをした。
二人、ゆっくりと共に歩んで、いい親になろう。
エリアスが楽しく幸せに暮らせるように、いっぱい頑張ろうと誓った。
次話は、明日の朝8時頃に投稿します。




