67:福岡県民、破水する。
おしっこを漏らしたのかと思ったら、どうやら破水だったらしい。
ロイと二人でアワアワとしていたら、侍女たちがバタバタと部屋に乱入してきた。
「カリナ様、ソファにバスタオルを敷いてますので、そちらに移動できますか?」
「ふぁい、しますします」
エマちゃんと、彼女の母でロイの侍女でもあるリリーさんに手伝ってもらいつつ、ソファにえっちらおっちら移動した。
ズンズンと痛みが増してくる。何だこれ。
「旦那様は腰を擦って差し上げてください」
「お、おう」
ロイがアワアワとしつつも、優しく腰を擦ってくれた。
横向きより縦向きの方がいいとか、右だ左だ、もちょっと強くとか、なんか色々注文したけれど、ロイはせっせと素直に対応してくれた。
「ふぐおぁぁぁ」
「どうした⁉」
「内角を抉るようにぃぃぃ」
「……内角?」
ロイがきょとんとしているが、気にしないでほしい。
激痛を誤魔化すために、何か有名そうなセリフとか言って、気を紛らわせているだけなのだ。
「うぅぅ、どんどん痛くなってきたぁ」
「カリナ様、医師を呼んでいますのでもう暫くお待ちくださいね」
「はいぃ」
出産は体力勝負なので、今のうちにご飯を食べるようにと言われた。
リリーさんが鬼である。
だがしかし、彼女は出産の大先輩。素直に従おう。
「カリナ、大丈夫か?」
「…………思ったより食べれる。謎い」
サンドイッチをもぐもぐしつつ、アワアワし続けているロイの口にも放り込んだりして、お医者さんの到着を待った。
「はい! 今!」
「ふんがー」
ゼーハーと深呼吸。
「はい! 今!」
「おんどりゃー」
いきむタイミングを合図され、根性のようにいきむ。
掛け声がなんか変だとかエマちゃんに言われたが、スルーで。
ロイは部屋の外で待機。
最初は立ち会ってもらうつもりだったけれど、あまりにもアワアワが酷くてお医者さんに追い出されたのだ。
ドンマイ、ロイ。
「うぅぅぅぅ」
「カリナ様、目を瞑っていきまないで!」
「うぇぇぇぇい、がんばりゅ、ふんぬーっ」
目を食いしばっていきむと、目蓋の毛細血管がプチプチっと逝ってしまい、何か酷いことになるそうだ。
どんなことになるんだ、一体。
久しぶりにスマホとインターネット環境が欲しくなった瞬間だった。
何時間いきんでいたのかわからない。
何度か眠りかけて、頬をペチペチ叩かれたり、水分補給を促されたり、果物を食べさせられたりした。
「もうすぐそこです! いきんで!」
「ふんぬぅぅぅぅぅっ」
力いっぱい、いきんだ。
その瞬間だった。
スポン! そんな体感で股から何かが出てきた。
いや、赤ちゃんなんだろうけど。
「んにゃぁぁ、んにゃぁぁ」
――――う、産まれたぁ!
次話は、本日21時頃に投稿します。




