66:福岡県民、煽る。
ロイの重た深い溜め息。
「それはそうだが…………ハッキリ言われると少し凹む」
「めんご!」
欲求不満は禁止ワードだったらしい。
ごめんねー、とロイの頭を撫で撫でしておいたが、何だかやっつけ感がある! と、文句を言われてしまった。
「めんご!」
「ふふっ……カリナといると、本当に毎日が楽しいな」
「そー?」
「あぁ。今までは帰ってきて寝るだけの屋敷だったんだ。カリナと暮らすようになって、屋敷に帰るのがとても楽しみになった」
囁くような小さな声で、ありがとうと言われた。
お互いに唇を寄せ合いキスをする。
毎日のように小さなトラブルが色々と起こるが、それも楽しいと思えるようになった。
「あんまし興味なかったんやけど、結婚ってよかもんなんやねぇ」
「え……興味なかったのか?」
「うーん。興味ないっちいうよりかは、『一緒に暮らしたい』っち思えるほどの人がおらんかった。かな?」
ロイはその感覚がイマイチ分からないようで、キョトンとしていた。
多少近代に近い世界観だとはいえ、貴族は家のために結婚する節がまだまだ残っているからなのだろう。
子孫を残すためだったり、家系を存続するため、そんな家や人が多くいる。
「一緒に暮らしたい……か」
ロイの眉間に皺が寄ってしまったので、人差し指でコシコシと擦った。
「俺は、カリナを愛しているから結婚したいと思ったが、それとは違うのか?」
「んー。他人の考えは解らんけん、なんとも言えんけど――――」
「……」
更に悲しそうな顔をさせてしまった。そんなつもりじゃなかったのになぁ。
「たぶん、ロイと一緒」
「一緒……なのか? 本当に?」
「うん。だって、いまこうしてるし?」
「っ!」
キラキラの空色の瞳を大きく見開いたかと思ったら、ぎっちり抱きしめられた。
「カリナの煽りが酷すぎて死にそうだ……」
それは人を抱きしめながら言うセリフなのか? とか思うけども、ロイが幸せそうな顔をしているから、まあいいかなぁと諦めた。
ラブラブしたり、悶々させたり、キュンキュンさせられたりしているうちに、いつの間にやら臨月になっていた。
「うっふ、苦しい」
「ほら、ゆっくり、ゆっくり……」
ベッドに寝転ぶのも、ベッドから起き上がるのも、中々に大変だ。
何なら息をするのも大変で、いつもハァハァ言って変態になった気分。
「うほぉ…………よいせー! いてぇ!」
謎の掛け声とともに起き上がる。と、同時に激的な腹痛と腰痛。
「お腹の中で暴れないでぇぇいたぁぁぁぁい! おしっこ漏れたぁぁぁ!」
「…………カリナカリナカリナ! たぶん破水だと思うんだがぁぁぁ⁉」
――――そっちぃぃぃぃ?
様々なことが未経験状態の三十代の二人。
ガチでパニックを起こした瞬間だった。
次話は明日のお昼頃に投稿します。




