64:福岡県民、ゲロゲロる。
妊娠を告げられて一週間。
めちゃんこ実感が湧いた。
実感が早すぎる。
「おぉうぅえぇぇぇぇぃ……ずはぁぁぁぁ!」
つわりである。
なんだこれ! と叫びたいくらいに、意味不明なタイミングで吐き気がする。
なんで庭のフローラルな香りで吐き気が湧くんだ。
「ずぎだのでぃ」
「……ん? 初めて聞くカリナ語だな」
方言ではない。ただのゲロからの鼻詰まりで濁音になっているだけだ。
乙女としてあるまじき姿で庭にゲロ。
庭師さんに申し訳ない。
ほんと、申し訳ない!
ちょっと遠くで焦々っとしている庭師のおじいちゃん、本当にごめんなさあぁぁい!
フローラルな香り、とても好きなのに今日から駄目らしい。
つわりの謎さは、昨日まで良かったものがだめになったり、得意じゃなかったはずのものが大好きになったり。
本当に、謎だ。
つわりに耐えて耐えて、耐え続けて四ヶ月。
吐き気や変なタイミングでの食欲がやっと落ち着いてきた。
「あぁ、久しぶりに炊きたてのご飯が食べたいぃぃ」
たぶんイケる気がする。
先月、ピラフを出されてゲロったけど、今回はイケそうな気がする!
「カリナ、そういう無駄なチャレンジはやめろ」
「ムダじゃなかし!」
「体重を増やせと言われているのに、どんどんと痩せているだろ? 食べれるものをしっかりと食べ、吐かないように気をつけないと……」
「むーっ! 食べたかものが、食べれんって、凄くストレス!」
「ん。まぁ、そうだよな」
ロイは仕方なさそうな顔で私の頭を撫でる。
でも、食べさせてはくれない。
そういう甘やかしは、絶対にしてくれない。
「ケチ!」
「はいはい」
「おたんこなす!」
「そうだな」
「変態!」
「ん、すまんな」
「ハゲ!」
「家系的にならない可能性の方が高いぞ?」
「うっさいハゲ!」
とりあえず、ガキンチョのような暴言を吐きまくった。
ロイには一切効果はなかったけれど、なんとなくなスッキリしたからまぁいい。
「あら? なにかゲッソリしてますわね。大丈夫ですの?」
遊びに来たマルティーナがまさかの心配をしてくれた。
マルティーナのくせに。
「ちょっと! どういう意味ですの⁉ お土産、持って帰りますわよ?」
「ちょ、ごめんて。うそウソ嘘。半分くらいはウソ!」
「フン! まぁいいですわよ」
――――いいんかい!
マルティーナからお土産を受け取る。
焼き立てのマドレーヌ。
焼き立てのお菓子の匂いが駄目で、ずっと食べれていなかったけれど、最近イケそうな気がしていたのだ。
「っ…………」
「どうですの?」
「んまぁぁぁぁい!」
「あら、良かったわ」
「ありがとー! マルティーナ大好きぃぃ!」
幸せマックスでマルティーナに抱きつこうとしたけれど、ロイにガシッと止められた。
二人でおしゃべりするからってサロンから追い出したはずなのに。
なぜにここにいるんだロイ。
「カリナ……匂いでバレてるからな?」
ロイが激的な真顔で、地を這うような声を出していた。
――――あ、やべ。
わりと本気で怒らせてしまったようだった。
次話は明日の朝8時頃に投稿します。




