62:福岡県民、夫のストーカー疑惑。
はてはて? ここはどこ、私はだぁれ? と首をひねりたいが、ロイに抱きしめられていて動けない。
ロイの腕をタップしつつ解放を願うが無視。
何だこの野郎と横っ腹に手を伸ばし、腹パン。
私の手が痛かっただけだった。
「ね、ここどこなん?」
「本邸の客間だ」
――――本邸?
あ、なんとなく思い出した。
確か私はダンスの授業を受けるために、本邸を訪れていたのだと。
そして、馬車移動中に気分が悪くなり…………。
窓の外は、夕陽になるちょっと前の太陽。
結構に明るい。
「ごめん。仕事中に呼び出されたっちゃろ?」
酸欠だか貧血だかで呼び出して申し訳ない。
コルセット脱いだらスッキリしたっぽいし、絞め殺す勢いで抱きしめなくて大丈夫。
だから、さっさと解放しやがれこんちくしょう。トイレに行きたいんじゃ! というのを、オブラートに包んで伝えた。
「……気付いてなかったのか?」
「はい? 何が?」
「あ、いや、とりあえずトイレに行ってくるか?」
「おん。ちょっくら行ってきます」
スッキリスッキリ、お腹減ってきたなぁ。なんて独り言のように話しつつ、客室のソファに座って用意されていたお茶を飲んだ。
紅茶かと思ったら、なにか違う。ハーブティーっぽい。
「これ、おいしかね」
ロイも飲んでいたようなので、なんのお茶か確認したかったのだけれど、ベッド横から高速移動してきたロイに、デロ甘なキスをされた。
またもや意識を飛ばすかと思った。
呼吸するタイミングくらい与えてほしい。
ロイと同じ肺活量があると思うな。
「すまん。興奮しすぎた」
――――興奮?
「何故に実家の客間で性的興奮⁉」
「…………カリナは俺を何だと思っているんだ」
ぶっちゃけると、年中無休の雄のような認識ではある。言わないというか、言えないけれど。
「イケメンで素敵な旦那さま?」
忖度盛り盛りで答えておいた。
何だか照れたような顔をしているので、満足らしい。
「ん。カリナも素敵だ。美しく、艶やかで、何でもこなせる器用さを持った、俺には過ぎていると思えるほどの妻だ」
まさかの返し技、真顔で褒め殺し。
照れ死ぬ。
「……その、ありがと」
「俺こそ。…………感謝、する」
「ん? んん?」
ロイが瞳に薄っすらと涙を溜めている。なぜだ。
言葉を詰まらせながら、感謝された。更になぜだ。
「カリナ」
「は、はい?」
「倒れたと聞いて、寝ている間に医者に診てもらった」
「おぉ、ありがとうございます?」
知らぬ間に診察されていたらしい。
「カリナ、君は妊娠しているそうだ」
「えぇ? いや、先月レディースデーちょろっとあったし」
「ものすごく軽くて直ぐに終わったと言っていたろ?」
言った。
ものすごく少なくて、ものすごく軽かった。
ラッキーひゃっほいって小躍りしてた。
「症状から考えて、妊娠で間違いないだろうとのことだ」
「症状?」
私は無自覚だが、ロイは小さな変化に色々と気付いていたそうだ。
――――こいつ、ストーカーか?
次話は明日の朝8時頃に投稿します。




