61:福岡県民、絞められる。
朝一番で恐ろしい報告を受けた。
新年に王城で開かれる舞踏会に招待されたらしく、それまでにどうにか数種類のダンスを習得する必要があると。
いままではお義母さまとおしゃべりがてら、のほほんとやっていたのだけれど、急遽スパルタ仕様に変えるとのことだった。
「グエッ……」
まさか、ドレスからガチのものにされるとは思っていなかった。
コルセットを力の限り絞められ、ヒキガエルのような声が出てしまう。
「奥様、もう少し絞めます」
「まってまってまって、これ以上はムリムリムリムリ! 絶対にやだっ! 吐くっ!」
必死の抵抗でどうにか少しだけ緩めてもらえた。
ゆっくり深呼吸していないと目眩がする。こんなにも絞められて、世のご令嬢たちは大丈夫なんだろうか。
ロイの実家に向かう馬車の中で何度か吐きかけながら、這う這うの体で屋敷の玄関に雪崩込んだ。
「きゃぁぁ! カリナちゃん⁉ どうしたの⁉」
お義母さまの声が遠くに聞こえる。
真っ白な世界に沈み込みかけた次の瞬間、急に全てのしがらみから解放されたような感覚に陥った。
「大丈夫か?」
玄関にへたり込んだ私の顔を覗き込んできたのは、何処となくロイに似ている渋いおじさま…………。
「おと……さま?」
「ゆっくりと深呼吸しなさい」
肩からジャケットを掛けられた。温かい。
あれ? なんで息苦しさがなくなったんだろう? と思っていたら、ドレスとコルセットがスルリと落ちかけて、慌てて胸元を押さえた。
「すまない。緊急事態だと思い、背中をナイフで割いた」
なるほど、それでこの開放感なのか。
軽やかに背中は見られてしまったろうし、いまドレスが落ちかけてちょいと余計に肌を晒してしまったような気がするけど、お義父さまはしっかりと顔を背けていてくれた。
「カリナちゃん、大丈夫⁉」
お義母さまはドレスが汚れることも厭わず、地面に膝を付いて私の心配をしてくれる。
なんて優しい家族なのだろうか。
気付いたらポロリと涙が流れて、意識がフッと沈んでいった。
「――――ナ、カリナ……」
「んんっ……んーっ」
何だか良く寝た気がする。
ググッと腕を伸ばしながら起き上がったら、頭がぐらりと傾いだ。
ボスリと布団に倒れ込む衝撃に備えた。が、来ない。
ふわりと鼻腔をくすぐるいい匂いとガッチリホールド。
「ん? ロイ?」
なぜかロイに抱きしめられていた。
ベッドにダイブよりマシな衝撃ではあるが、意味不明だ。
なぜにロイがいるんだ? よくよく考えると、なぜにベッドに寝ているんだ?
――――はて? はてはて?
次話は、19時頃に投稿します。




