60:福岡県民、脳天チョップする。
マルティーナが副団長の秘書兼雑務として初勤務する日、私も騎士団に出てきていた。
「では、こちらはまとめて王室管理局に提出ですわね」
「ああ」
「承知しました」
副団長に仕事の確認をしつつ真面目にこなしていた。
やるじゃないかマルティーナ。
それに対して、ロイはマルティーナと副団長の方をチラチラと見て、全く仕事になっていない。
何回か脳天にチョップを入れたけれど、効果はないようだ。
「集中できんのなら、演習場で指導しといで!」
「っ……ハイ」
ロイがしょんぼり顔で、横に置いていた剣を腰に下げて執務室を出て行った。
「さて、二人ともちょっと休憩しよう?」
三人分の淹れたての紅茶と、家から持ってきたクッキーを接客用のテーブルに用意した。
マルティーナに仕事は大丈夫そうかと聞くと、ドヤ顔でドヤドヤされたので、彼女のお皿のクッキーを一枚横取りして食べた。
「ちょっとぉ⁉」
「あ、ごめん。なんかイラッときて」
「返しなさいよっ!」
食べたプレーンを返そうとしたら、チョコクッキーの方がいいと言われたので、チョコをあげると、ニコニコ笑顔になった。
「マルティーナってほんとチョロカワイイのにね?」
「同意ですが、コレがやらかすと負の波及効果が酷いので、ロイも気が気ではないのでしょう」
「なるほどぉ。地位だけはあるお嬢様特有のヤツね」
「あのぉ、わたくし横にいるのですが?」
マルティーナが頬を膨らませてプリプリしていたが、今のディスられ方でプリプリだけで済んでるんだから凄い。
メンタルが強いのか、鈍感なのか。
副団長いわく、どっちもらしい。
「とりあえず、ロイに認めてもらえるように頑張ってね」
「そこは『妻の私がなんとかします』とかじゃありませんの?」
「えー? 自分で撒いた種でしょ?」
「そうですが…………」
マルティーナまでしょんぼりしだしたので、チョコクッキーをもう一枚分けてあげた。
これだけでまた笑顔になるのだから、ほんとチョロカワイイ。
ロイと帰宅後、食事をしながらマルティーナの事を軽く話した。
今日一日見て、どう思ったのか聞いてみると、思いのほかプラスの意見が出た。
「行儀見習いに出ていただけあって、仕事はしっかりと出来るようだし、他の隊員への態度も申し分なかった」
「だよね? 今までは確かに酷かったし、ムカつきもしたやろうけど、一緒に働いていけるよね?」
「………………………………ん」
――――返事が遅っ!
「その……カリナの場所が奪われていくなと…………嫌だったんだ」
何だそれかわいい! 撫でたい! と思ったけれど、ロイはテーブルの向かい側に座っているので撫でられなかった。
家でのマナーもきちんとしようと言ったやつどいつだ!
……私だけども。
今日は、かわいいロイがいっぱい見られて、明日からの貴族の勉強も頑張れそうだ。
次話は、明日の朝7時に更新します。




