59:福岡県民、墓穴を掘っていた。
ハネムーンから一ヶ月ほど経ったある日、騎士団長の執務室で雑務をしていると、ハンス副団長が急に思い出したように話し出した。
「来週からマルティーナが週三で来ますので」
「そうな――――」
『そうなんだ! 雑務が楽になるね』と言いたかったけれど、ロイの叫び声に阻まれた。
「聞いてないぞ! 俺は許可してない!」
「私の助手は私が選べますので。団長の許可は不要ですからね?」
「だがっ!」
ロイはいつまでマルティーナを拒絶し続けるのだろうか。
最近は、嫌いとも違いそうなんだけれど。
「一週間も溜め込んだ分を一日でどうにかしろとかブラック企業のようだし、他に助手探せよと思ってたし、私は大賛成なんだけどね?」
「っ……あ」
取り扱う書類の機密性が半端ないものもあって、一介の騎士に触らせられないというのはわかるけれど、それなら私はどうなんだという。
「カリナはその……」
言葉を濁されたが、実は解っている。
ワタシが書類に触れている理由は、まず身寄りがないこと。
そして、書類に書いてあることの意味が分からないこと。書類の中身に興味を示さなかったこと。
なによりも、何かあったときに処分しやすいことだったんだと思う。
「あ…………だが、処分というほどの……」
「ってことはほぼ当たり?」
「っ、あ、あぅ」
ロイがキョドッとしていて、色々とモロバレすぎる。
騎士団長として駆け引きに激弱なのは大丈夫なんだろうか?
「カリナにだけですよ。わりと有能なんですよ。たぶん。書類整理や作成はカスですが」
「カス…………」
ロイがベッコリと凹んでいた。しょんぼりするロイはなんか可愛い。頭をナデナデしたくなる。
したけど。
ボサボサになったとイジけていたが、顔はニヨニヨとしていたので放置で大丈夫そうだ。
「そもそも、中身はしれっと読んでたんだけどね。じゃないと分類できないし」
「っ⁉」
「フッ」
「王族の方々の日程表とか、諸外国要人の警護計画書とか、諸々の報告書とか。内容を勝手に誰かに話したら、一発で首チョンパだろうなぁと思って黙ってただけで」
ロイはなぜに驚愕の表情なのか。
副団長はなぜに半笑いなのか。
私をアホ扱いしていたのか、ロイがアフォなのか…………前者がとてつもなく濃厚なのは否めないけども。
「いや、幼い子だと思っていたのと、ハンスが指導したのかと……」
「指導していなのにサクサクこなしていたので、年齢がなんとなく見えてきました」
――――それか!
副団長になんでバレてたんだろうなぁと思っていたら、自分のせいだった。
「団長もカリナも、基本的に鈍感ですよね」
「「なっ⁉」」
「カリナと比べられたくないんだが?」
「ロイと比べられたくなぁぁぁぁい!」
二人同時に叫んだ。
「全く、似た者夫婦ですね」
副団長にどデカい溜め息を吐かれた。
そして、結局マルティーナは採用決定なのだそうな。
その後も暫くの間、ロイの無駄な抵抗は続いていたらしい。
次話は、19時頃に投稿します。




