53:福岡県民、おねだりする。
どうにかロイの膝上から抜け出し、馬車から飛び出した。
執事のフランクさんにジロリと睨まれたが、ハネムーンということもあり、怒らないでいてくれた。
後ろから不機嫌顔のロイが、のっそりと降りてくる。
「旦那様、頬が赤くなっておりますが?」
「…………蚊が止まっていたらしい」
「なるほど?」
フランクさんはなんとなく納得していない顔だったが、やっぱりスルーしてくれた。
「お腹減った!」
「ん」
スルリと横に来て、手を繋がれた。
腕をぐねぐねと動かしても外れなかったので、諦めることにした。
ゆったりと町中を歩き、レストランへと向かう。
なーんか手が痛いのは気のせいにしとくとして、ビッタリとくっついてくるのは歩き辛い。
「ロイ、せからしかってば!」
「カリナのバカ」
「はいはい」
ぷちぷち言うロイは可愛いのでよしよししたいが、身長が高すぎて届かない。
「むむっ……可愛くない」
「何がだ?」
「ロイの背が高すぎる」
「…………どうしようもないんだが?」
それはそうなんだけどもね。
繋いだ左手を少し持ち上げて、右手でロイの手を撫でたら重低音で「キスしたい」と呟かれた。
スルーでいいと判断したので、スルー。
のんびりとお昼を食べて、町中をウインドウショッピング。
眺めるだけでも楽しい。
特産品は果物類だった。
とくにいちごが有名らしい。
「んむむーっ! 甘いぃ」
「どうですか奥様」
奥様⁉ 奥様って身内以外から呼ばれるの、ちょっと違和感。
「ロイ、いっぱい買ってもい?」
秘技、ロイの袖口ツンツン引張り、かーらーのー、上目遣い!
「っあ………………フランク、買い占めろ!」
――――おぉ、効果絶大!
ロイがちょっと俯き加減になり、両手で顔を押さえていた。
悶え苦しんでいるらしい。
因みにフランクさんは笑顔で却下し、店員さんはションボリした。
「まぁ、カリナ様がお菓子など作ってくださるのであれば、五キロほどは購入しますが?」
「作る作る! みんなで食べよ?」
「では、店主、いちごを五キロお願い致します」
「ありがとー、フランクさん!」
フランクさんにお礼を言っていたら、ロイが自分には言わないのか、フランクに笑顔を見せるなとか、なんかブチブチと呟いていた。
これもスルーでいいと判断したので、スルー。
この日は夕方近くまで果物の買い物というよりは、仕入れをした。
屋敷に帰ったら、いっぱいお菓子を作ろう!
次話は明日のお昼頃に投稿します。




