52:福岡県民、ワンパンする。
結局、マルティーナにも万年筆を買った。
ロイと二人並んで町中を歩き回り、保存の効きそうなお土産なども色々と買い足した。
明日からは行きとは別のルートでの帰路だ。
また別の町を見れるということで、私はワクワクとしながらホテルに戻った。
ロイはちょっと凹んだままだった。
ホテルで夜ご飯を食べ、部屋に戻ってのんびり。
荷物の片付けは侍女たちがやってくれるので、私はとてつもなく楽ポジだ。
「ある程度で出てくれ」
「「かしこまりました」」
ロイが珍しく侍女に指示していた。どうしたんだろうかと眺めていると、侍女たちが部屋から出て行った瞬間、ロイが覆いかぶさってきた。
グイッと顎を押し上げ、拒絶一択。
「なんね?」
「その……抱きしめたくて」
「ソファで押し倒してるけど?」
ロイがそっと視線を逸らした。後ろ暗いのか?
何をするのか、何を言い出すのかと待っていたが、ロイはドサリと私の上に倒れて来ただけだった。
――――イチャイチャもせんのかい!
横腹にワンパン入れながらキレた私は悪くないと思う。
帰路の旅ももれなくお尻が痛いけれど、なんとなくロイの膝には乗り辛い。
「そろそろ次の町に着くぞ」
「あ、そうなん?」
馬車に揺られて二時間、窓の外を眺めて過ごしていた。
次の町のことをちょっと聞きたかったのだが、ロイがジッと見つめてくるので、なんでか言葉が出なかった。
「…………抱きしめてもいいか?」
「は?」
あまりの脈絡のなさに、どえらく低い声が出た。
その瞬間、ロイの悲しそうな顔は、ちょっとどころではなく母性が擽られてしまった。
「よかよ! ほら!」
両手を広げれば、ロイは破顔してギュムムと抱きしめてきた。
私を持ち上げ自身の膝の上に。
首筋に顔を埋め、ズーハァァァァと重ための深呼吸。
「ちょ、鼻息がくすぐったかよ!」
「……」
「いっっったぁぁぁぁ!」
肩肉をがぶりと噛まれてしまった。
ちょっと懐かしぃ。
「もー! なんで噛むとよ!」
「カリナのばかっ」
いじけるロイの頭をポンポンと叩いていると、雑だ優しく撫でろとか色々と注文をつけてきた。
なんだこの大きな子供は。
可愛いじゃないか。
よしよしと撫でていると、チュッチュと首筋にキス。
「んはは、擽ったいってば!」
「カリナを失いたくないという気持が……ずっと根底にあって。奪われるんじゃないかとか、余計な心配ばかりしてしまう。やっと手に入れた愛しい存在なんだよ」
急にどうした⁉ と思ったけれど、たぶん昨日からの続きなんだろう。
ずっと考えていたのか。長いな。……とか言ったら、ロイは泣きそうだなぁ。と考え直してぐっと堪えた。
「色々と怖かよねぇ。頑張れ」
「他人事だな」
「そうならんとわからんから、基本は考えんようにしとる」
たぶん、問題の先送りではないはずだ。
馬車が止まり、扉をノックされたので慌てて膝から降りようとしたが、なぜかロイが離してくれなかった。
次話は本日21時頃に投稿します。




