49:福岡県民、言語の感染力について考える。
波打ち際を裸足で、のんびりと歩く。
ロイと手を繋いで。
「歩くたびに、足の指の間にさ、濡れた砂がムニュッって入るの……ゾワゾワせん?」
「あぁ、ちょっと気持ち悪いなぁ」
「え⁉」
「は⁉」
私は、なんとも言えないけれど、ちょっと気持ちいい。そんな感覚だった。
ロイは、ただただ気持ち悪いらしい。
「カリナの言うゾワゾワってそういう意味だったのか?」
「え、ケースバイケースやけど? 気持ち悪いときにも使うよ?」
「…………使用難易度が高いな」
オノマトペの使い方が変なのは自覚しているけれど、『ゾワゾワ』とかは、どちらの感情もありえると思う。
そんなに難しいかなぁ、と首をひねっていて思い出す。
そもそも、だ。この世界ではオノマトペがかなり少なかった。
『にこにこ』とか『イライラ』とかは伝わっているけれど、『しんしんと』とか『ふにふに』とかは伝わらなかった。
「なんとなくな、状況と他の言葉から理解しているんだ。カリナ語と同じあつかいだな」
「あぁ! そーゆーこと!」
そういうことか! と納得して、またもやハッとする。
カリナ語ってなんやねん。
「ふはは。カリナの話す言葉は可愛らしくて面白いんだよ」
だから皆、私が普通に話すことを止めていたらしい。
ナチュラルに方言出まくるから、楽で良かったけども。
「しかし、元々から使い分けられるとは気付かなかった。カリナは多言語を修徳しているのだなぁ」
「……」
なんだこのディスられている感。
方言を一言語に数えるなといいたい。が、隣県に行くだけで、そのレベルで聞き取れなくなることも知っている。
初めて佐賀県で年配の方を接客したときに、何回も聞き直してしまった。
今はもう慣れて、何なら感染っているけども。
方言の感染力は高いのだ。
従兄弟が三年ほど転勤で大分県にいた頃は、『飴ねぶったら?』とか『うわ、よだきー』とか、完全に感染していた。
その後、更に転勤で二年間だけ広島にいた頃は、『わし』とか『じゃけぇ』に感染していた。
しかし、不思議に思う。
言語の感染力は高いのに、間違いなく六年間は勉強する英語はなかなか感染してくれない。
まぁ、理由は簡単で、日常的に使わないから、というのが大きいんだけども。
「ここが日本語で良かったよ」
「いや、エッセリンク語だが?」
そうでした。この国の名前は『エッセリンク』でした。
すぐ失念してしまう。
因みに、なぜか日本語で通じているという謎は、かなり初期段階から考えないようにしている。
「ロイと言葉が通じてよかった!」
「ん。俺もそう思う」
ロイがふわりと微笑み、少し屈んで顔を寄せてきた。
私はそれを迎え入れるように、両手を彼の首に伸ばし、絡める。
柔らかく重なる唇。
いつまでも、こういう時間が続けばいいなぁと目を瞑ってキスしつつ、ロイの不埒に動く手は力いっぱい抓んでおいた。
「んぶ……いたい」
「キスだけで、我慢しー」
「……ん」
――――やっぱり、ロイは可愛かねぇ。
次話は、本日21時頃に投稿します。




