45:福岡県民、驚く。
湖畔の別荘でゆっくりと朝食を取り、ハネムーンの旅を再開した。
「おぉぉけつがぁぁぁ」
「んはは。膝に座るか?」
「すわらんっ!」
馬車道が少し悪い場所で、ガタガタな振動によって尾てい骨に激しめの衝撃。
「いっ、あうっっっ、んあっ! もうっ! 腰に来るっ」
「……俺の腰に来た…………」
ロイが軽々と私を持ち上げ、膝の上に乗せてしまった。
ギュムムムムっと抱きついてくる。
変態か。変態なのか。
「なんば考えとるとね?」
「いや、ちょっと、な?」
『な?』とか、同意を求められても困るというものだ。が、しかし、ロイの膝上にいると、腰とお尻に来る衝撃が和らぎはした。
不埒な動きをする手は、軽くスルーしておいてあげよう。
大きな町に着き、レストランで昼食を取る。
旅先では基本的に特産品を食べるようにしている。
「まだ内陸なのに、海産物が多いんやね」
「隣の領地が海に面してるからな。領主同士が仲がよく、取引が盛んなんだ」
ほうほうと聞きながらブリッブリのエビを食べる。
「んーっ。こんなに肉厚なの、久しぶり食べた!」
「ん? カリナはエビが好きなのか?」
「うん! すっごいすき!」
「…………なるほど」
ロイがなぜか俯き加減でニヤリと笑っていた。
どう見ても顔が悪役なのだけれど、なんとなく触れてはいけない気がした。
「美味しいもの食べると、幸せやねえ」
「うむ。それは確かにな」
にこにことニヤニヤとで見つめ合いながら、ゆっくりと豪華な海産物に舌鼓を打った。
町中を少し散策して、ウインドウショッピングのつもりが、ロイに色々と買われつつ、今日宿泊するホテルへと向かった。
「ふぁぁ、楽しかった!」
「ん。熊に慌てるカリナ、可愛かった」
「うるさかよ!」
どふりとベッドに身体を投げ出して、軽く休憩をしていると、ロイがお茶を入れながらクスクスと笑い出した。
さっき立ち寄った蚤の市みたいなところで、熊使いがいたのだ。どうやらこちらでは普通らしく、みんな気にもしていなかったのだが、二メートル近い熊なんて、間近で見たことがなくて。
ましてや重低音の鳴き声というか雄叫びというかなんて、聞いたこともなく………………見事に「ひぎゃっ!」と叫んでしまった。
ロイは、隣でずっと笑っていた。
なんだかムカついたので、脇腹にチョップしたのだが、私の指が痛いし、ロイは擽ったいと更に笑うしで、余計にモヤモヤだった。
「カリナ、ほら茶が入ったぞ」
「むー! ありがと」
「ん」
出来る男は紅茶も淹れられるらしい。
「あぁぁ、おいしい! ロイが憎たらしい!」
「ぶふふふっ!」
この日、部屋にはロイの笑い声がいつまでも響いていた。
遅くなりました。
次話は、本日21時頃に投稿します。




