42:福岡県民、湖畔での攻防。
少し肌寒くなった夕方の湖畔。
朱色の夕陽が水面をキラキラと輝かせている。
二人で寄り添って座り、それを眺める。
幸せなひととき。
「もうすぐ秋になるんやねぇ」
この世界の貴族たちには、あまり四季の感覚がない。
夏と冬。
社交シーズンと、それ以外。
「秋は……実りの時期だったな」
農業や酪農、畜産などに携わる平民たちの方が、季節の移ろいをよく見ている。
「あぁ、繁殖期とかだな?」
「き・せ・つ・の・う・つ・ろ・いっ!」
「あ……あぁ! 季節の移ろい、だな!」
ロイの手の甲を抓みながら、眼力で嚇す。
人のお尻を揉んだり、腰を撫でたり、とても手癖が悪い。
しかも、爽やかな笑顔でやっているから、タチが悪い。
「新婚なんだ。可愛い奥さんといちゃいちゃしたいと思うのは、当然の欲求だろう?」
「…………笑顔が嘘くさい」
ジトッと睨むと、怪しい笑顔を更に深めて、唇に軽いキス。
ちゅっちゅ、何度となく啄まれて、結局は深いキスになっていく。
「部屋に、行こうか?」
「いかん!」
「ふっ……怒るな。可愛いだけだ」
ちゅっちゅちゅっちゅ、今度は頬に瞼にと何度もキスの嵐。
「お腹が減ったと! 夜ご飯ば食べようよぉ」
湖畔横の別荘に荷物を運んだら、夜ご飯の時間まで少し散歩しょうと言われたから、散歩に来たのだ。
私はご飯を心待ちにしながら、散歩に来たのだ!
「っくくく! そうだったな。すまないすまない。さぁ、戻ろうか?」
「うんっ!」
何を食べても美味しい。
そりゃあ貴族のご飯だから、基本毎回美味しいのだけれど。
なんとなく、特別感のあるご飯のように感じられて、いつもより美味しく感じる。
「ふむんっ! とろけるっ」
「ん。とてもクリーミーだな」
デザートに出たプディングは更に格別だった。
「ふぁぁぁ、お腹いっぱい! 幸せ!」
「ん、ほら風呂に入ってこい」
「はーい」
少し苦手ではあるけれど、侍女たちに手伝われながらのお風呂。
しっかりと身体を温めて、夜着とガウンをしっかりと着込んで、寝室に戻った。
ロイが交代でお風呂に行っている間に、ベッドに潜り込んだ。
お布団に柔らかく包み込まれて、ウトウト。
寝ちゃいけない、寝ちゃいけない、と考えてはいたものの、ウトウト。
結局、ロイがお風呂に行って十分もしない内に、しっかりとお布団を掛けて、瞼を閉じて眠りについてしまった。
◇◆◇◆◇
「カリナ、待たせたな」
「…………」
「カリナ……」
なんとなくではあるが、こうなりそうだとは予想していた。
昨日も無理をさせてしまったし、今日も慣れない馬車移動が続いた。
「カリナ、お疲れさま」
ニヘラとした笑顔で、猫のように丸くなっているカリナ。
頬にキスをすると、少し身動いで薄目を開けた。
起こしてしまったかと焦ったが、スウスウと可愛らしい寝息が聞こえて来た。
「おやすみ、カリナ」
カリナの横に潜り込み、柔らかく抱きしめると、胸に擦り寄ってきた。
これは、なかなかキツい戦いになりそうだ。
下腹に力を入れ、深呼吸。
今日くらいはしっかりと休ませてやらねば。
――――今日くらいはっ!
次話は、明日の朝7時頃に投稿します。




