40:福岡県民、全身くまなく洗う。
立食パーティーも滞りなく進み、招待客の前に立って挨拶をすることになった。ロイが。
「本日は――――」
本日は、ご多用のなか私どもの披露宴にご列席いただき、誠にありがとうございます。
平素よりお世話になっている皆様と、このように楽しく、幸せな時間を過ごせましたこと、大変うれしく思っております。
未熟なふたりですので、ご迷惑をおかけすることがあるかとは思います。
皆様方には、公私にわたるご助言、ご教示を賜りますよう、よろしくお願いします――――。
とても真面目だ。
それはそうなんだけども。真面目だ。
会場のスタッフさんたちへの感謝のあと、ロイが急にこちらを向いた。
「カリナ、俺と出逢ってくれてありがとう。家庭を築くと決心してくれてありがとう」
「ロイ……」
「俺の一生を君に捧げる」
そっと触れるだけのキス。
その瞬間、庭園が祝福の歓声に包まれた。
ロイの屋敷に戻り、侍女たちに手伝われながらウエディングドレスを脱ぐ。
うおぉぉぉ、やっとコルセットの締め付けから解放された! 私は自由だぁ! と、小躍りしたかった。
なのに、捕まえられた宇宙人よろしく、両脇をがっしりと掴まれ浴室に連れて行かれた。
「奥様、お磨きいたします」
今朝まではお嬢様と呼ばれていたのに。
両手をワキワキと動かして近付いてくる侍女たちに恐怖を覚えた。が、逃げられない。
「あぁぁぁれぇぇぇ」
「……何ですか、その叫びは?」
「いや、定番かなって」
この定番が通じなかった時の悲しみは、きっと伝わらない。
二時間ほど掛けられ、全身ピカピカのツヤッツヤに磨き上げられた。
なんだかいい香りのするクリームも塗りたくられた。
「なにこれ?」
「男性が興奮する作用のある、香油です」
「……はい?」
「ですから、男性が興奮する作用のある、香油です」
ニ回言われた。大切なことだからだろうか?
「大奥様が使用するように、と」
――――おかぁぁぁさまぁぁぁ!
またかと言いたい。
なぜに、毎回これほどに、状況を悪化させるレベルのトラブルの種を、ぶち込んでくるのだろうか。
あのロイに、興奮作用のあるものなど……私が事切れること間違いなしの展開になる予感しかしない。
風呂場に逆戻りして、全身を石鹸でゴッシゴシと洗った。
「ふぅ! 石鹸の匂いは落ち着くわね!」
「…………そうでございますね」
侍女たちをギロリと睨んで、同調するようにと目で伝えた。
これが屋敷の使用人たちを采配するコツなのか⁉
寝室のベッドの上でロイと向かい合う。
「ん…………石鹸のいい匂いがする」
――――よっし!
次話は、明日のお昼頃に投稿します。




