38:福岡県民、誓う。
化粧を直してもらい、二人でチャペルへと向かう。
段々と心拍数が上がってきた。
私の親族はこちらの世界にはいないので、バージン・ロードは特別にロイと歩く許可が出た。国王陛下から。
それが余計に緊張を上乗せしてくる気がする。
「ハンスが話をつけてくれて助かった。母が出ると碌なことにはならないからな」
お義母さま、何かするたびに碌なことにならないのか。
軽く恐怖である。
「さぁ行こうか」
「っ、うん」
ちょっとだけ膝が震える。
でも、足は止めない。
ロイと前に進むと決めたから。
白を基調としたチャペル。
飾られている花は薄い桃色ばかり。
それは、私のためだけの花々。
「…………綺麗」
「ん。カリナの好きな花を揃えてやれなくてすまなかったな」
「ううん、いいの――――」
結婚式の準備の際、お義母さまが好きな花は何かと聞いてくださった。
それを基調にして、飾りを考えて下さるとのことだった。
私が好きな花、私が郷愁を感じる花。
それは、ひとつしかない。
桜。
花霞。遠くで群がった満開の桜が、淡く霞がかった光景。
桜影。水辺に咲く桜が、水面に映る様子。
桜吹雪。桜の花びらが雪のように舞い散る様。
花の浮き橋。散った桜の花びらが、水面に浮いて、まるで浮橋のように見えること。
桜だけで沢山の言葉がある。
瞳を閉じると、瞼の裏に映像がありありと浮かび上がるような気がする。
だから、『桜』と伝えた。
なんとなく予感はしていたが、この世界に桜はなかった。
似ているものはアーモンドだけれど、時期が違ったし、そもそも木なので式場に用意できる訳もない。
妥協にはなるが……と、お義母さまが淡桃色の花を沢山集めることを提案してくれた。
「――――好きばい。とっても素敵やもん」
まだ何も始まっていないのに、泣きそうになってしまった。
ロイと義両親の気遣いが嬉しくて。
しずしずと、バージン・ロードを歩く。
白いウエディングドレスで。
様々な希望を聞いてもらえた。
三十は過ぎたけど。結婚の可能性とか考えていなかったけど。
それでもこっそり憧れていたこともある。
「――――誓いの言葉を」
愛しい人と、一生を共にするという誓い。
「「誓います」」
ロイと見つめあい、誓いあう。
「では、誓いのキスを」
ベールをゆっくりと捲られ、頬を染めたロイがハッキリと見えた。
少し上を向き、瞳を閉じた。
柔らかく重なりあう唇。
「今、この両名は神の前に夫婦たる誓いを立てた。何人たりとも、これを引き離す事は出来ない――――」
ロイと私の夫婦としての時が、いま、刻み始めた。
次話は、明日の朝7時に投稿します。




