37:福岡県民、焦りまくる。
カラーン、カラーン、と澄んだベルの音が聞こえる。
花嫁の控室でお化粧をしてもらっているのだけど、隣に座る偉丈夫が眩しすぎる。
花婿衣装で優雅に足を組み、蕩けるような笑顔でこちらを見てくるのだ。目が痛い。
「ロイ、準備は?」
「もう終わった」
「挨拶回りとか……」
「ん。カリナを見ていたい」
薄っすらと頬を染め、そんなことを言うロイ。
部屋にいた侍女たちまでも悶え苦しむはめになった。
恐ろしい子。
お化粧が終わり、式の開始時間まで少しおしゃべり。
出逢った時のことなどを思い返したりした。
「実はな、初めは…………男児だと思っていた」
「えぇ?」
「いや、髪が凄く短かったし、パンツ姿だったしな?」
「あー」
どうやら流石に男と間違っていたとかは、失礼すぎて駄目だろうと今まで言わなかったらしい。
相変わらず優しくて可愛いい人だ。
だがしかし、なぜ今言ったよ?
「どんな姿のカリナでも、俺は恋に落ちたんだろうなぁと思ってな」
おっふ。まさかの激甘ゼリフ攻撃。
ロイが侍女たちにペペイと払うように手を振って、控室から退室させた。
どうしたのかと思ったら、柔らかなキスの嵐。
やっとこさ化粧が終わったのに、また口紅の塗り直しじゃないか。
そうは思うものの、応えてしまうわけで。
「ん……もぅ。式、始まるとに」
「すまない、あまりにもカリナが綺麗でな。少し辛抱たまらなくなった」
――――辛抱たまらなくぅぅ⁉
ふわりと抱きしめられた。
もしやもしやの、もしや⁉ とか焦るというか、ドキドキというか、ドギマギというか、流石にダメよ! とか、そんな気持ち…………を、返してほしい。
ただ抱きしめられ、首筋に顔を埋められただけ。
紛らわしい言い方をするなと言いたい。
邪推したようになってしまったじゃないか。
私の乙女心がズタズタである。
ぶっちゃけると、乙女ではないけども!
「クククク……カリナは可愛いなぁ。楽しみは、夜に、な?」
「ぶぶぶぶぶぶぇっっっつに、期待とか、たのひゅぃみとかっ、ワクワクとかししししてなかしぃ!」
「んはは。本当に可愛いいなぁ。俺は楽しみだがな?」
「ふひょっ⁉」
にやりと、それはそれは悪どく、妖艶に微笑まれた。
ロイが日に日に手練れ感を醸すようになってきた気がする。
あの頃が懐かしい。初めての時なんて、おずおずとしていたくせに!
「カリナが手取り足取りで育ててくれたからなぁ?」
「言い方っ!」
ロイがニヤニヤとしながら、さっきから妙にしつこくノックされ続けている扉へと向かって行った。
とりあえず、少し乱れてしまった口紅をこっそりと拭った。
次話は今日の21時頃に投稿します。




