36:福岡県民、妄想する。
マルティーナ嬢を席まで送り届け、救護テントに戻るとロイが私を探していた。
「どうしたんですか?」
「あぁ、いや……またアレが来たと聞いて」
「彼女でしたら、貴族席に送り届けましたよ」
妙に悔しそうな顔で謝られたので、何でだろうと思って聞いてみた。
自分の不始末を私にさせて申し訳ないのやら不甲斐ないやらで心の中がグチャグチャらしい。
「気にされなくて大丈夫ですよ」
段々と彼女を掴めてきて、ちょっと面白く感じていたし。
「だが、確実に負担だろう?」
「んー? どっちかというと、副団長には負担ですかねぇ」
「……なぜそこでハンスが出る」
驚くほど低く、地を這うような声。
なぜそこで、剣呑な空気になる! と、私は言いたい。
「ハンスはまだカリナのことが好きだ――――」
「私がいない場で、勝手なこと言うのは止めていただきたい」
副団長がどこからともなく現れて、ロイの前にズイッと進み出てきた。
「だが、事実だろう?」
「「……」」
無言の睨み合い。
なのに観客席からは黄色い叫び声や歓声。
ふわりと聞こえた内容は、「見つめ合っている」「告白かしら?」「キスするのかしら?」だった。
睨み合い続けている二人を横目に、テント内の作業をしつつ、地味に気になったので聞いてみた。
「二人でキスしたこととかあったの?」
「「――――は⁉」」
だって、みんなあたかもそういう事実があるかのように話しているんだもの。
「……本の中では…………していた、らしいが」
ロイってけっこうそういったことに寛容だし、わりと内容把握してたりするよね。
実はBとLに興味津々とか?
それはそれで美味しいけれど。
そうなった場合、副団長には確実に負ける気しかしないんだよねぇ。
「ちょっと待て。言っている意味が理解できん」
「へ?」
「なぜそこでハンスとくっ付けようとする」
「え? だって定番のカップリングだし。それに副団長、美人だし?」
テントの奥ではジョージが勢いよく吹き出し、ロイと副団長は心底嫌そうな顔をしていた。
「ふいー。今日は疲れたね」
お風呂から上がって、ベッドに俯せでダイブ。
ふかふかのお布団を堪能していたら、ロイが覆い被さってきた。
「……カリナは、俺の愛を信じていないようだな」
「へ?」
「ちょっと、心にも身体にも分からせてやろう」
「まさかの、ワカラセプレイ⁉」
ついこの前まで純情少年だったくせに、ハードなプレイに目覚めたのか! と、ワクドキしていたら、ロイに『ワカラセプレイ』とは何かを説明しろと言われた。
そして、小一時間説教され、デロデロに甘やかされただけだった。
――――チェッ。
次話は明日の朝7時頃に投稿します。




