35:福岡県民、扱いに慣れる。
結婚式を二ヶ月後に控えたある日、騎士団で公開演習が開かれた。
式の準備は、お義母さまが全ての指揮を取ってくださっているから、私は公開演習のサポートに回ることにしていたので、会場を駆け回っている。
「カリナ様ー、こっちのテントで治療を手伝っていただけますかー?」
「ジョージ、いい加減に様付けやめてよ」
「いや、無理でしょ」
団長と結婚することになり、様々な弊害も出た。
ひとつは、年齢がバレた。
驚愕し、絶叫し、ドン引きされた。
もうひとつは、全員が様付けの敬語で話しかけてくるようになったことだ。
地味に寂しい。が、仕方ないかとも思いはしている。
「ですわよねぇ」
「……気持ち悪い」
「「……」」
二人でふひひひひ、と笑っていたら、副団長が現れてジロリと睨まれた。
「素が出ていますよ、夫人」
「まだ結婚してないし」
「フッ」
鼻で笑われた。
副団長がそのまま颯爽と去っていったが、何をしに来たんだろうか?
「副団長ですか? たぶん王族席の方に挨拶だと思いますが」
ただ単に通りかかっただけらしい。暇か?
「いや、だから暇じゃないって…………あ」
「お、言葉遣いが戻った」
「はぁ、もお。カリナこそ、喋り方変えたじゃないか」
ジョージが頬を膨らませてブツクサ言っている。スルーしていたら、聞き捨てならない事を言われてしまった。
「まぁ、時々カリナ語出てるけど」
「え? マジで?」
「うん」
「いつ出とるよ⁉」
「いま?」
「…………で、出てましたね」
生まれながらにネイティブな福岡県民、転移直前までネイティブな福岡県民。
つまりは、息をするのと同じように、方言がツルンと出るってもんだ。
仕方ない仕方ない。
「よし、しっかりとふんどしを締め直そう!」
「フン、ドシ?」
――――この世界には、ふんどし無かったいね。
ジョージと楽しくおしゃべりしつつ、救護テントで治療の手伝いをしていた。
治療といっても、薬草で作られた軟膏を塗って、ガーゼをあてて、包帯を巻く程度だけれども。
「あぁら、こんなところにいましたのね! 下民のような格好をして、下民のようなお仕事。侯爵家には相応しくございませんことよ!」
「はいはい、お嬢様、どうやってここまで来られたんですかぁ? 関係者以外立入禁止ですよー」
ロイの元婚約者――マルティーナ嬢の腕をがっしりと掴み、引きずり歩く。
「ちょっと! 何するのよ!」
「はいはい。煩いですよー。チャキチャキ歩いてくださいねー」
この数ヶ月、かなりの頻度で彼女の突撃があった。
おかげで、段々と扱い方を理解し、今ではこの程度に落ち着いている。
私にしては優しい方だ。
「どこがよ!」
「ほら、貴族席に着きましたよ。今度抜け出したら、副団長を召喚しますからね」
「っ…………ふんっ!」
マルティーナ嬢は、副団長がとてつもなく苦手らしい。
その割には、ちょっと頬を赤らめてるけれども。
――――よくわからんなぁ。
次話は、明日のお昼頃に投稿します。




