19:福岡県民、会いに行く。
デートのあと、団長の実家へと向かうことになった。
身も心も、準備ゼロの状態で。
馬車に揺られながら外の景色を眺める。
「わぁぁぁ、夕日が綺麗かねぇ」
「まだ随分と日は高いが?」
「黙らっしゃい! 現実逃避中なのっ!」
あと五分で着くとか、もう目の前だぞとか、全く聞こえない。聞こえないったら聞こえない。
ツンとそっぽを向いていたら、頬に軽くキスをされ、お腹の奥底に響くような低い声で「着いたぞ」と言われた。
無駄にエロい。
馬車を降りる際、団長から手を差し伸べられる。手を軽く上から重ねてエスコートしてもらう。
この謎のくだりにもやっとこさ慣れてきた。
玄関の手前に立った瞬間、扉が開いて好々爺ふうの執事さんが出てきた。
「ローザリオ様、お帰りなさいませ」
――――ろ、ローザリオ⁉
「その名前で呼ぶなと何度言えば良いんだ」
団長が眉間にシワを寄せてブチブチと何か文句を言っていた。
サロンでソワソワ。
暖炉の上に家族写真がいくつか並べてあった。
ちらりと見たときに幼い男の子が見えたのが気になって仕方ない。
この世界に写真機があったことにも驚きだが。
団長の子供の頃の写真が見たい。
「カリナ、そんなに緊張するな。……カリナ?」
「…………」
「カリナ?」
「へ? 呼んだ?」
ずっと呼んでいたらしい。写真のせいで気もそぞろになっていた。
「おぉぉ、めんご」
「ふふふ。写真が気になるのか?」
バレバレだったらしい。ここは素直に頷いておいた。
「後で見せてやろう」
「うんっ!」
にっこにこで出されていたお茶を飲んでいたら、驚くほどに美魔女になったハンス副団長が現れた。
自分でも言っている意味が分からないが、そんな感じの女性が現れた。
「ローザリオ、良くやりました!」
開口一番にそんなことを言ったハンス副団長(仮)は、ゆっくりと歩いているように見えるのに小走りレベルの速さで私の横に座り、ギュムムムっと抱きついてきた。
誰かはなんとなく予想がついているものの、どう反応して良いものやら。
「母上、その名で呼ばないでください、と何度言えば良いのですか。それからカリナを離してください」
団長と副団長(仮)に挟まれ、軽くもみくちゃにされた。
「ちょ――――」
「離してください! 母上」
「嫌よ。こんな可愛い子、どこで見つけてきたのか言いなさい」
「あにょ――――」
「あぁん、喋ったわぁ! 可愛い! 本当にちっちゃいのねぇ! 可愛いぃぃ!」
何か言おうとするたびに、団長のお母様に頬ずりされてちゃんと話せない。
「……」
団長は団長で、更に私をもみくちゃにしてくる。
「っ……あーもぉ! せからしかってば!」
「キャァァァァ!」
――――やらかしてしもうた!
次話は、明日の朝9時頃に投稿します。




