遭遇
【タツマ、シズナ! 危ない!】
二人に向かって放たれた炎の弾丸を、魔本から勢いよく飛び出したライが身代わりとなって受け止めた。
「……ライ!? っ!」
声をかけながら、辰真は魔本刹歌の中から刀を取り出し構える。それを横目で見ながら志修那も人造式神の一体を呼び出した。
「守っておくれよ、護連!」
真剣な声色で志修那が呼び出したのは、三角形タイプの盾型の式神だ。一メートルくらいのその式神を自身の全面に出すと彼は辰真に向かって声をかけた。
「辰真! 敵がどこから仕掛けてるのかわからないんだ! ひとまず、護連の内側に入りなよ!」
「……はい」
素直に答えると、辰真は刀を構えたまま指示通りに入る。志修那の祓力の影響だろう、見た目以上に防御範囲は広いようだった。その中に入りながら辰真はライとの連携が切れていないことを認識し、志修那に耳打ちする。
「……伊鈴ノ宮先輩」
「なんだい!?」
「……後方支援は頼みます」
それだけ告げると、辰真は護連の守りの外へと飛び出した。
「ちょお!? 辰真ぁ~!?」
焦った声を発する志修那の方を見る事なく辰真は一直線に進んで行く。そこはビルの壁だ。走る勢いを殺すことなく進むと辰真が声を上げた。
「……ライ!」
いつの間に合流したのか、ライが現れた。そのまま、辰真を背に乗せると、垂直な壁を駆け上り始める。それを茫然と見ていた志修那が一言もらす。
「……なにあれ……」
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夜のビルを駆け上っていると、上から紅蓮の弾丸が一発、一発と放たれた。ギリギリで攻撃を避けつつ登り切れば、屋上に人影が見えた。
「うぅっ……! オレに、近寄るなぁ!!」
赤い炎を両腕に纏いながら、件の妖魔憑きであろう青年が叫ぶと同時に、彼の背後に別の人影が飛び上がって来た。
月の光をバックに現れたのは、操姫刃だった。彼女は伍掛剣を大きく振りかぶって青年に向かって技を放った。
「金の術式。壱銘、斬葬」
彼女が放った技を炎の壁で防ぐと青年は、挟み込む形となっている辰真の方へと向かって炎の弾丸を放った。
「っ! 土のの術式、壱銘……華盾!」
防御技を出し、炎の弾丸を防ぐ辰真の背後から、辰真を乗せ終えたライが飛び出した。
【妖魔憑きよ、覚悟!】
ライがそのまま青年に向かって後ろ足で蹴りを入れようとする。だが、青年はギリギリでかわすと、二人と一匹から距離を取った。
この屋上は大きな百貨店のものだからか、それなりの広さと遮蔽物がある。それをうまく利用して青年が遠ざかって行く。
その動きは軽やかで、どう見ても一般人のそれではない。
辰真と操姫刃は顔を見合わせると、青年の後を追った。