初任務は
「……今日集まってもらったのは、いよいよ初任務だから。心して聞くように」
九十六期Eチームとなって数週間。和沙の唐突な言葉に、志修那が大声を上げた。
「はぁぁいぃぃ!? い、い、いきなり初任務ぅ!? 聞いてない! 僕はそんなの聞いてないぞ!」
「……今言ったからね? それはさておいて。これより概要を説明するから資料を手に取って」
「そんなぁ!?」
情けない声を上げる志修那を無視すると、和沙が静かに続ける。
「今回課せられた任務は……妖魔憑きの捜索と保護」
妖魔憑きという単語を聞いて、操姫刃が口を開いた。
「妖魔憑きとはなんだ?」
彼女の疑問に答えたのは、ライだった。彼は辰真の持つ魔本の中から声を発する。
【妖魔憑きというのは、憑りつく系の能力を持つ妖魔に文字通り、憑かれている状態の人間のことを指す。わかりやすい例を出すと悪霊に憑りつかれているようなものだな】
「それはお前達とはどう違う?」
操姫刃が鋭いところを突いて来る。それに反応したのは辰真だった。
「……俺達は妖魔憑きとは違います。その、……対等なんで……」
対等という言葉に和沙の眉がピクリと動く。だが皆、辰真に視線をやっていたため、その事に気づく者は誰もいなかった。
「そうか。まぁ、妖魔に憑りつかれているのと、契約はまた別物か。余計なことを訊いたな、すまない」
「……あ、いえ……」
上手く返答できない辰真を気にすることなく、操姫刃が黙る。それを見守っていた和沙は静かに資料に視線をやる。
資料には、一人の青年が写っていた。気弱そうだが、その目つきは鋭く暗い。
「この人が妖魔憑きなん? なんか怖い顔してるねー」
楓加に同意するかのように、志修那が声を上げる。
「こんな! いかにも危なそうなヤツ相手に、僕は前には出られないからね!? 無理! 無理だから!!」
騒ぐ彼を横目に見ながら、辰真は思いをはせる。
(妖魔憑き……。支配関係……か。苦しい、だろうな……)
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黒樹市内某所にて。
「うぅぅぅ……!」
うす暗い路地裏を歩きながら、青年は声に怯えていた。
【どうしたァ? ビビるこたぁねぇぜェ?】
「うっる……さい! オレを、オレは……!」
わずかに残っている抵抗の意志を示すと、妖魔は笑う。
【いいねェ! それこそ、オレの爆炎を宿すにふさわしいぜェ!】
どこまでも狂った笑い声を、自身の内側から聴きながら青年は天を見上げる。
「だ、れか……オレを……殺して、くれ!」
悲痛な声をあざ笑う声に、青年は自分が蝕まれていくのを感じていた。