不思議な気分
今日から自室となる部屋にて整理をしていた辰真は、一息吐いた。
「……そんなに荷物、多い方じゃないと思うんだけどな……」
ボソリと呟けば、魔本から出て辰真を手伝っていたライが口を開く。
【荷物が多いというより、タツマは昔から片付けが苦手だからな。まぁ適当にワタシがやっておくから、少し庭にでも出ていたらどうだ?】
「……いや、それはさすがに……。俺もやるよ」
ライに任せると、自分が後でどこに何があるのかわからなくなることを経験で思い知っている辰真は、再び手を動かし始めた。その様子にライは優しく微笑むのだった。
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全員の荷物整理が終わる頃には、昼時を過ぎていた。
辰真がリビングに降りると、キッチンからいい匂いが漂ってきた。
(……カレーか?)
匂いに釣られてキッチンに顔を出せば、そこには操姫刃がいた。手際よく、効率的に調理をしている彼女の邪魔をしてはいけないと、そっと離れて、リビングを通り抜けて庭に出ようとした時だった。
「あっ、たっくんじゃーん! 荷物整理終わったん?」
朗らかに楓加が声をかけてきた。辰真は少し困惑気味に返事を返す。
「あ、はい……。終わりました」
「そかそかー! じゃあ休憩って感じ? ていうか、お昼もう食べた? 良かったらトッキーが作ってるカレー食べない? 美味しいんだよ~!」
彼女の誘いを断る理由が見つからなかった辰真は、戸惑いつつつも彼女の誘いを受けることにした。
(まぁ……腹減ってたのも、事実だしな……)
四人掛けのテーブルに腰掛けると、志修那がちょうど降りて来たらしく足音がした。
「ふあ……。お腹空いたな~ってこの匂いはカレーか!? 僕、大好物なんだけど!?」
「じゃあラッキーだね、しずなん! みんなの分あるから食べよ食べよ~」
しばらくして操姫刃が鍋ごとカレーを持ってきた。その量の多さに思わず辰真と志修那が驚く。
「……え?」
「おいおい! いくらなんでも多くないか!?」
二人の言葉にも、操姫刃は顔色一つ変えずに答える。
「おれがよく食べるんだ、文句があるのか? それに、カレーは日持ちもするんだ。多くて困ることはないだろう?」
作り手にそう言われてしまえば、何も言い返せなくなる。操姫刃は四人分のカレーを手際よく用意し始めた。
「あ! そういえばたっくん、ライライの分はいらないの?」
「あ……はい。ライはその、俺達人間の食事はいらないタイプの妖魔なので……。その、ありがとう、ございます」
辰真がそう言えば、楓加は穏やかな笑みを浮かべ、操姫刃からカレーを受け取った。どうやらシーフードカレーのようで、エビなどがふんだんに盛られていた。
(……なんだろう。不思議な気分だ……)
まだ出会って間もない、そんな間柄の四人が揃って食事を摂ることに困惑しつつも辰真もカレーを受け取り、全員に行き渡ったことを確認した楓加の合図で、遅めの昼食を食べ始めるのだった。