把握テスト②
大きく伸びをしながら楓加が前に出る。それを確認して、和沙が右手を上げた。
「……射出」
土偶型の人造妖魔達が一斉に飛び出してくる。彼女は背負っていた縦型の布包みを外し、メイスを取り出すと構えた。
「なぁ、初架? 浮風は確か回復が得意なんだろう? なんで、あんな物騒極まりない武器を持っているんだ!?」
志修那の指摘に、操姫刃は特に気にする風でもなく答えた。
「回復系が一番狙われやすいからな。合理的だろう? それに……」
一端言葉を区切る。そして、今まさにメイスで次々と人造妖魔を倒している楓加に視線をやりながら続けた。
「アイツは怪力でな? 素手で戦わせると色々問題が……な」
あっさりととんでもない暴露をする操姫刃に対し、志修那が困惑したような声色になる。
「かい……りき? どれくらい怪力だって言うんだ……?」
「それこそ、ちょうど今。ほら、メイスが折れたぞ。鉄製のが……」
言われて楓加の方へ視線を戻せば、彼女の鉄製の重そうなメイスがぐしゃぐしゃに折れ曲がっていた。その光景を見て、辰真は思う。
(……メイスって、あんな折れ方するものだっけ……)
人造妖魔自体もそれなり硬いはずだが、それよりも彼女の怪力による訓練場の床の破損の方が凄まじかった。だが和沙は冷静に射出を止める。
「浮風楓加君? これで終わり。戻って?」
「ふぅ~緊張した! もーまたすぐに折れちゃった! 新しいストック用意しないと!」
明るく言う彼女に、志修那と辰真の視線が合う。お互い、思っていることは一緒のようで、あえて何も言わないことに決めた二人は、無言のまま静かに和沙の指示を待つことにした。
「では、最後……八月一日辰真君。前へ出て? 準備はいい?」
辰真は前に出ると、魔本の刹歌を構え、静かに目を閉じた。彼なりの集中方法だ。
「……では、射出する」
射出された人造妖魔が襲ってくる。
「……行くぞ、ライ」
【あぁ、行こう】
接近してきた人造妖魔を魔本・刹歌の中から取り出した黒い刀身の刀で斬り伏せた後、今度は拳銃を取り出し遠距離の標的を撃つ。もちろん、祓力は乗せた上で。そして、辰真の背後に回り込んで来た人造妖魔をいつの間にか刹歌から出ていたライが噛みついて破壊した。
一人と一匹による連携攻撃だ。
そうしている間に、頭上から降って来た人造妖魔に対し、辰真が術式を発動させる。
「土の退魔術式、壱銘、華盾」
祓力の花びらが舞い、攻撃を防ぐと辰真は上半身を出したままのライの両腕の力を借りて高く跳ね、刀で斬り裂いた。
「わー! 本から刀と銃がでてきたねー! 手品みたい!」
楓加の声と拍手が聞こえる。その声に返答する間もなく、和沙から終わりの合図が飛んできた。
「……やめ」
辰真は呼吸を整えると静かにチームの元へと戻る。
「……全員ある程度の戦闘能力は把握できた? できたね? ……今日はここで解散とし、明日からの共同生活に備えるように……以上」
こうして、怒涛の一日を終えた四人は帰路に着いた。