壊す者
「は、はぁぁぁぁぁぁ!?」
志修那の今日一番の大声にも、楓加は動揺することなく笑顔で答える。
「だからさ! しずなんが術式を解析して、それをもとにトッキーとたっくんとライライが壊しちゃえば万事解決じゃない?」
あっけらかんと、とんでもない案を出す彼女に辰真が困惑しながら尋ねた。
「……あの。術式を壊したとして……水神の暴走が止まるとは思えないのですが……?」
「あっ、そっかぁ! 確かにそうだねぇ~。でもでも! 壊したら弱体化はするんじゃないかな?」
(……どこまでも、壊す前提なのか……?)
困惑を極める辰真の近くで、志修那の顔がみるみる青ざめていく。そんな中、口を開いたのはやり取りを見守っていた争護だった。
「あの~差し出がましいようですが~。時間はもう一刻もないかと~」
確かに彼の言う通りで、こうしている間にも雨量はどんどん増しており猶予はなさそうだった。今まで黙っていた操姫刃が口を開く。
「決断の時だな。リーダーもこう言っていることだし、辰真、伊鈴ノ宮、覚悟を決めろ。行くぞ」
「君達ってさ、躊躇って言葉知ってる……? はぁぁ~……わかったよ! やればいいんでしょやれば! でも前線には間違っても出さないでおくれよ!? いいね!」
こうして、作戦が決まった一行は動き出した。
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「はははは! 全部! 全部壊しちまえ! そして……消え去れ妖魔ぁ!!」
荒ぶる水神を安全なところから、濁った瞳で見つめる壮年の男性。その横で若い男女が視線を交らわせていた。その表情は黒いベールによって伺い知ることはできない。この男女が着ているのは……洋風の喪服に近い服装だ。
ただ、女性の方は静かに肩を揺らしている。その様子を見て、若い男性の方がため息を漏らした音だけが響く。
その空気が一変したのは、彼らの施した術式が破壊され出してからだった。
「なっ!?」
驚く壮年の男性とは正反対の反応を、女性が見せた。
「来たか……トクタイ! ぬるま湯に浸かりきったイイ子ちゃん達! 妖魔もろとも……終わらせてあげるわ!」
突如高笑いを上げると、女性は若い男性を連れてその場を立ち去る。壮年の男性は二人を気にすることなく、荒ぶる水神に視線を戻していた。悪意に満ちた笑みを浮かべながら。
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「よし……。これ、で……はぁ。あと少し……だよ。うぅ……もうヤダぁぁぁぁ!!」
『革命の奏者』が仕掛けた術式を解析しながらぼやく志修那。そんな彼に対し、操姫刃が声をかける。
「次はどこだ? 早くしろ」
「ねぎらいの言葉の一つもないわけぇ!? ねぇ! 僕凄い仕事してると思うんですけどぉ!?」
不満を言いつつも、解析の手を止めることはない。そんな彼の様子を感心しきった様子で辰真が見つめる。
(……伊鈴ノ宮先輩、ネガティブだけど……実は凄い人なのか……)
失礼なことを思いながら、辰真は魔本から出した刀で術式を破壊していく。ライはというと本の中で待機している。
術式を破壊していくにつれ、雨の勢いが衰えてきている。このまま行けば……そう思った時だった。
「へぇ~。坊や達がトクタイなわけ? ははっ……よっわそ~!!」
響く声に警戒していると、現れたのは……黒いベールに喪服のような洋服を身に纏った若い男女だった――。