妖魔との契約者
辰真の言葉に誰よりも反応したのは志修那だった。彼は今日一番の大声を上げる。
「なぁぁぁ!? んだってぇぇぇ!? 妖魔と契約ぅ!? 退魔師なのに!?」
騒ぐ彼の頭を操姫刃が押さえた。
「ぐぬぅ!? な、なにを!?」
「うるさい。そこの……金髪ピアスもとい、なんだったか? お前。そう、お前の話が終わってない。だろう?」
またも淡々と語りかける操姫刃に頷くと、辰真が続けた。
「……諸事情あって妖魔と契約していますが、彼は味方です。間違いなく。……ライ」
辰真が魔本を開き床に置けば、そこから現れたのは、全身黒い体毛に覆われた四足歩行の獣型の妖魔だった。
「彼がライです。俺の……相棒です……!」
少しだけ語気強く言えば、志修那は視線を彷徨わせながらも黙ってしまった。その静寂をたやすく操姫刃が打ち破る。
「そうか。まぁ式神使いやら鬼憑き? だったか? そういうのもいると聞くし、おかしくはないな」
彼女の言葉に楓加も同意の意味を込めてか、ライに近寄ると右手を差し出した。
「ウチ、楓加! よろしくねライライ!」
【ライ……ライ? まぁその、なんだ。ワタシとタツマ、共によろしく頼む】
楓加のフレンドリーさに困惑しながらも、ライは差し出された手を舐めた。その絵面を見つめながら、辰真は思う。
(退魔師になったけど……この先、何を為せばいいんだろう……)
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自己紹介を終えた四人は、男女に分かれて更衣室へと入って行った。隊服に着替えるためだ。一緒に入ってすぐに、志修那が辰真から距離を取り、一番奥のロッカーに手を伸ばした。
「先に言っておくけど、僕は怖がりでもあるんだ! だから慣れるまでは! 僕に近寄るなよ! 慣れるまで!!」
(……一応、順応しようとしてはくれているのか……?)
そんなことを思いつつ、辰真は一番扉側のロッカーに手を伸ばし、隊服に素早く着替えると、少し距離を開けて男子更衣室を出た。
しばらくして、女子更衣室から操姫刃と楓加も出て来た。楓加がスカートで、操姫刃がスラックスだった。
「ジェンダーレスな世の中だしな、スラックスでも不思議ではないが……えっと初架? 君、僕なんか足元にも及ばないイケメンと化してないか!?」
志修那の言葉に操姫刃が相変わらず淡々とした態度で返事をする。
「知らん。おれは動きやすさを選んだだけなのでな」
そんな彼女に対してかは不明だが、着替え終わるのを待っていた和沙がゆっくりと口を開いた。
「……服装に関しては、二年前の隊員からの苦情などからの判断。気にしないこと」
そう言われてしまえば、全員黙らざるを得なくなる。なお、ライは再び魔本の中だ。
そんな四人に向かって、和沙が告げる。
「では、これより室内の設営と各々能力把握テストについて説明するから。心して聞くように」