見立て
大まかな被害状況を聞いた一行は、次なる話に耳を傾けた。
争護の話はこうだ。
この町に古くからある篠雨川を埋め立てる話が突如として持ち上がり、あっという間に決まってしまったのだという。
この現代において普通はありえないことであり、手順のことも踏まえると何かしら裏にいる……というのが彼の見立てだ。
「確かに、今時このご時世でここまで強引な工事というのは、通常ではありえないな。ただ……裏というのがおれは引っかかる。彪ヶ崎氏、貴方が想定している裏の者とはなんだ?」
操姫刃の言葉に、争護は目を伏せながら答える。その声はどことなく震えていた。
「はい~それはですねぇ~。トクタイと妖魔側、その双方を敵と認識している組織『革命の奏者』ではないかと~私はみております~えぇ~」
聞きなれない組織の名前を出され、楓加、操姫刃、志修那が首を傾げる中辰真が椅子から立ち上がった。その勢いで魔本・刹歌がずり落ちて中から慌ててライが前足を出し落下を防ぐ。
「おや~? 君は彼らをご存じで~?」
ひと呼吸おいて、辰真がゆっくりと口を開く。その表情はいつもより険しい。
「……はい、少しだけ……知っています。俺達は一度……戦ったことがあります」
「な、なんだってぇぇぇぇ!? ごふっ!」
大声をあげて驚く志修那の口を操姫刃が塞ぐ。そして、辰真の方へと視線を向けると先を促した。
「……俺達が出会ってすぐ……師匠の元で修行をしていた時に……その『革命の奏者』の下っ端らしき人に、襲われて返り討ちにしたことが……。あ、その人は師匠に捕らえられて……どこかに連れていかれていましたが」
「ぷは! 勝ったの!? そして捕まえちゃったの!? どうなってんの君のところ!?」
操姫刃の手をどかしながら声を上げる志修那の頭を、操姫刃が容赦なく叩いた。痛みに悶える彼をおいて楓加が話を戻す。
「えっと~、じゃあたっくんはそんなにその組織のことは詳しく知らないんだね? 彪ヶ崎さんはどうなんですか?」
やりとりを困惑した様子で見ていた争護が苦笑しながら答える。
「妖魔という概念そのものの存在を、赦さない組織だと聞いております~」
「妖魔という存在自体を嫌う者ということか。それは理解した。だが、それがこの件とどう繋がる?」
操姫刃が素直に疑問をぶつければ、争護が眉間に皺を寄せる。怒っているようでもあり、泣いているようでもあるその表情が印象的だった。
「はい~。私めの愚弟、彪ヶ崎信護の支援を密かにしていたのがこの組織らしくてですね~。その、恥ずかしながら~我が一族と『革命の奏者』の一員と思しき人物とは因縁がありまして~。というか、見立てが正しいならその人物はこの土地を大変憎んでおりまして~それ故に今回の事態を引き起こしたのではないかと~思っている次第です~」
その言葉に四人は息を飲む。つまり、この町全体を襲っている水害は……私怨による可能性が高いということだからだ。




