探し物を求めて
無事に報告書を書き終えた四人は、それぞれ自由時間を過ごすことにした。操姫刃と楓加は二人で食堂に向かって行き、志修那は用事を思い出したからと出て行ってしまった。
一人残された辰真は、おもむろに魔本の中でくつろいでいるライに声をかけた。
「……ライ」
【どうした、タツマ?】
少し言いにくそうにしながら、辰真が再び口を開いた。
「その……資料室に、さ。行ってみようと思うんだけど……どうかな?」
【お前の望むようにしたらいいさ】
その言葉に安堵した辰真はゆっくりと椅子から立ち上がると、待機室を後にした。
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「……ここか」
少し迷ったものの、無事資料室に辿り着いた辰真はゆっくりと中へ足を踏み入れた……のと同時に、室内に女性の声が響き渡った。
「なんっで! こんな地味なことやらなきゃなんねーんだよ! クソが!」
桃色の髪のスタイルの良い若い女性が、見た目とは裏腹な乱暴な口調で愚痴っている。それをそばにいた茶髪の若い男性が苦笑いをしながらなだめていた。
「まぁ、仕方ないよ。……これが終わったら俺達も自由時間だし、早く終わらせちゃおう?」
「……ちっ!」
その様子を横目で見ながら、辰真は静かに二人の横を通り抜け、奥へと向かう。奥から順に目的の本を探そうという作戦だ。
(……それに、あの怖そうな女の人の近くに、寄りたく……ないしな)
雰囲気もだが、なにか得体の知れない気配をその女性から感じ取った辰真は、関わらないことに決めたのだ。幸いにも、女性と男性は辰真に視線をやることなく、二人で話ながら何かをしていた。
それに興味を持つことなく、辰真は静かに本を探し始めた。目的の本は……妖魔王についてだ。
(……妖魔王。全ての妖魔の頂点にして……二年前の顕現で何もしなかった存在……)
正直、入りたての新人が仕入れられる情報は少ないだろう。それでも辰真は知りたかった。
(……俺の……神蔵家との……父さんの血筋に何があったのか? ……知りたいのは、そこだ)
夢中で資料を漁ること数時間。ようやく、それらしき本を見つけた辰真は、それを手に取ろうとして……思わず落としてしまった。
拾おうとかがんだ時、声をかけられた。
「君、大丈夫?」
視線を上げれば、そこにいたのは入り口付近で女性とやりとりしていた、茶髪の若い男性だった。男性は穏やかに微笑む。
「……あ、の。大丈夫……です」
本を拾い上げると、辰真は立ち上がろうとして……手を差し伸べられた。
「その資料、結構重たいだろう? いくら男子とはいえ、その体重のかけ方は身体によくないよ?」
指摘され、辰真は視線を彷徨わせた後、その手を握り今度こそ立ち上がった。
「君は見ない顔だけど、新入りさんかな?」
「あ、はい。九十六期、Eチーム所属……です」
「……そっか、Eチームか。うん! 頑張ろう! よくEチームはおちこぼれなんて揶揄されるけどさ、努力は報われるから! きっと、なりたい自分になれるよ!」
若い男性の勢いに圧されて、辰真がなんと答えようかと思案していると、遠くからあの女性の声が響いてきた。
「おい! どこ行った! 終わったんだから、さっさともどっぞ!」
「はいはい。今行くから! それじゃ、また!」
男性は辰真に軽く手を振り、その場を後にしてしまった。完全にペースに飲まれてしまった辰真は、静かに息を吐き、呟く。
「……部屋、戻ろうかな……」




