思念
【下に降りる気か! マズイぞ、タツマ! トキハ!】
ライの声が響く。先に動いたのは辰真だった。
「……止めて、みせる! 土の術式、肆銘、円盾!」
本来防御技の円盾を『爆炎の妖魔』の行く先に展開させ、道を塞ぐ。
「おっとォ! 防御技をこう使うかァ! おもしれェ!」
方向転換をすると彼は円盾を足蹴にして、辰真の方へと直進して来る。
(くっ! 位置が悪すぎて……かわせない!!)
その刹那、割り込んだのは操姫刃だった。彼女は伍掛剣の柄を握り直して叫ぶ。
「伍掛剣、最大展開! シークエンス解放!」
伍掛剣が五分割され、操姫刃を囲むように回転する。その回転は『爆炎の妖魔』が近づくに連れて勢いを増していく。
「今! ハック開始!」
彼女がそう告げた瞬間、『爆炎の妖魔』に向かって五つの閃光が放たれた。そして……。
「妖魔! 命令だ。その男から離れろ!」
変化はすぐに起こった。榛登の身体から黒いモヤが現れ、どんどん彼から離れて行く。気を失った榛登の身体は、展開していた円盾に乗っかって落下を免れたようだった。その状態を維持したまま、辰真が呟く。
「……あれは……?」
【『爆炎の妖魔』の思念本体だろうな。急げ! あのままだと他の誰かに憑りつくぞ!】
黒いモヤは再び屋上へ戻りながら何か言っているようだったが、言葉として聞き取れなかった。だが、敵意だけは認識できた。
「させん!」
操姫刃が分割した伍掛剣を元の一本の形に戻し、技を放った。
「金の術式、伍銘、封魔刃」
黒いモヤはその技をかわし、炎の塊へと変貌していく。ちょうど成人男性ほどの炎の人型が浮かび上がった。
【オレはァ! まだァ! オワラネェ!】
屋上の柵の上に足がつかない程度の位置で、『爆炎の妖魔』の思念が佇む。
【マダマダマダマダァ! オワラネェンダヨォ!】
明確な敵意とともに広がる炎を前に、辰真はライが連れて来た榛登を抱えたまま、慌てて再度防御技を展開させた。
「辰真! その男は任せた……と言いたいところだが、おれは力を使い過ぎた。交代だ! お前があの妖魔を倒せ!」
いつの間にか近くに来ていた操姫刃にそう告げられ、思わず辰真は目を見開く。そうしている間にも、炎の勢いは増していく。
【タツマ、決断する時だ。……安心しろ、ワタシはお前と共にある】
「……ライ……。わかり、ました。初架さん、この人をお願いします……!」
意を決した辰真は、炎を防ぎながら『爆炎の妖魔』の思念の前に立った。
「……ふぅー……。行くぞ……!」
【オオゥ? オマエガアイテカァ? イイゼェ! コイヨォ!】
かろうじて聞き取れる思念の言葉に、辰真は返事のかわりに握りしめていた刀を構え直した。
「妖魔を……祓います……!」