まみえるは
「はぁはぁ! クッソぉ! 来るなぁぁぁ!!」
青年は大声を上げながら、炎を全身に纏い始める。禍々しい紅が夜を染め、熱が辺りに伝播していく。
「ちっ、熱いな。差し詰め、憑りついてる妖魔は火属性といったところか?」
操姫刃の言葉に頷く辰真。そんな二人の先を行くライは、あっという間に青年に追い付いた。
【案ずるな。今、解放してくれる! 爆葬爪!】
前足を交互に動かしながら、ライが飛ぶ衝撃波の爪を飛ばす。それを青年は炎の壁を出して防ぐ。だが……。
「……背後はもらいました……!」
ライに気を取られていた青年の背後に、いつの間に回り込んだのか辰真がいた。そこへたたみかけるように、操姫刃も合流し、青年に刃を向ける。
「チェックメイト、だな? 妖魔憑き、大人しくおれ達に降伏しろ。……お互い、合理的に行くとしよう?」
半分脅しのような口調の彼女に答えたのは、どこからともなく響く"声"だった。
【はっ! たまんねェなァ! オレもォ乗ってきたぜェ!? なァ、榛登ォ?】
「う、うるさい! 悪魔が! 死にたいだけでなんで! なんでこんなことになっているんだ!?」
青年――榛登の言葉に、辰真が困惑した声を発する。
「……貴方……死にたいんですか……? なのに……妖魔憑きに?」
「ああそうだよ!! 悪いか!?」
怒気を含んだ榛登の声に呼応するように、さきほどの声が被さった。
【いい感じの絶望具合だろう、トクタイさんよォ? だァから気に入ったんだァ! オレの器にふさわしいってなァ!!】
その言葉を最後にその声は聞こえなくなった。だが、それと同時に榛登の様子が変わる。
「あはははは! いいねェ! 来たぜ来たぜェ!」
先程までとは違う口調、声色、そして気配。降ろしていた茶髪を上に掻き上げると、しばらくして落ち着いた動作で辰真と操姫刃に向かって炎の弾丸を放つ。
それを防ぐ二人に向かって、彼は声を上げる。
「やっとォ! 馴染んだなァ!!」
その言動と行動は明らかに、先程までの榛登とは別人である。その姿をみた操姫刃が声を荒げる。
「辰真! 全力で防げ!!」
「っ! はい!」
そう辰真が返答した瞬間には、爆炎が昇り、炎が屋上全体を包み込んでいた。かろうじて防御の術式を展開した辰真と護符で防いだ操姫刃だが、炎の勢いは止む気配がない。
「お前らはァ、強いのかァ? それとも雑魚かァ?」
愉しげな妖魔の問いかけに答えたのは操姫刃だった。
「強いかどうかは、戦えばわかることだろう? なぁ……『爆炎の妖魔』!」
彼女にそう呼ばれた彼は高らかに笑う。
「正解だァ、トクタイさんよォ! 褒美の炎だァ!!」
防御技を展開したままの二人に向かい、炎の弾丸を二発放つと、『爆炎の妖魔』は狭い屋上から――勢いよく飛び降りた。