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侍女、初日

いよいよ侍女ですね!



レイアはコルネールと共に使用人食堂へ行き、夕食を受け取った。


使用人たちは仕事の手が空いた隙間を縫って、食事を摂ったり休憩をしたりするそうだ。


レイアとコルネールと同時刻に夕食を受け取りに来た使用人も何人かいて、こういった場に慣れていないレイアは萎縮していた。


初めて来る場所、初めて会う人、初めて見る料理、そのどれもが新鮮で好奇心が刺激されると同時に、どんな対応をされても自分自身を守ろうと、心のガードも強くなるような気がした。


だからこそ、挨拶をしたいけれどタイミングが掴めないし、顔を上げて周囲の人の顔を見ることもできない。


(緊張する…。食事中に話しかけるのは失礼かしら、でも食べ終わったら出ていってしまうだろうし…)


ウジウジと頭を悩ませていると、救世主は透かさず登場した。


「みなさん、みなさーん!注目してくださーい!こちら、今日から新しく侍女として働くことになった私の友人でーす!」


食堂の端から端まで聞こえるくらいの通った声を響かせて、全員の注目を集めたのはコルネールだった。


いきなりの大声に、隣にいたレイアが1番驚いていたと思う。


「ほら、挨拶どうぞ!」


コルネールは、唖然とするレイアを肘で突きながら小声で囁いた。


「は、初めまして。レイア・オルゼットと申します。あの、何もできない未熟者ですが…お、お力になれるよう精一杯頑張ります。ので…よろしくお願いします!」


レイアは、コルネールに急かされた勢いで、何も考えずに咄嗟に挨拶を口にして頭を下げた。


何の面白みもなく、子供じみた挨拶になってしまったと思うし、途中で噛んでしまった。


頼りなさそうだと思われただろうか。


こんな田舎くさい娘では、仲間に入れてもらえないだろうか。


視線が痛い。


注目されるのは苦手だ。

注目されて、良かったと思える試しは無い。


後ろ指を刺されるような注目のされ方は、もう嫌だな。



そんなことを考えていると、下げた頭は上げられなかった。




<パチパチパチパチ…>


一瞬の静寂が通り過ぎた後、拍手の音が聞こえてきた。


その音に釣られるように顔を上げると、食堂にいた人々がレイアに向けて拍手をしてくれていた。

しかも、微笑みを添えて。


その光景はまるで“ようこそ”と迎えられたような気持ちになった。


胸の辺りがジーンと暖かくなる。

こんな経験は、初めてだったから呆気に取られて固まってしまった。


「ほれ、ここ空いてるよ!おいでよ!」

「おばさんたちとおしゃべりしましょうや。」


固まって、目だけをキョロキョロ動かすレイアを見て、座る席を探していると受け取ったのか、周囲の人が声をかけてくれた。


もうそれがどれだけ嬉しかったことか。


(あぁ。良かった。…嬉しいな…。)


そう自覚した瞬間、目に涙が溜まってきた。


けれどここで泣くのは恥ずかしいので、目から涙がこばれ落ちないように必死に誤魔化そうとした。


「えっ、ちょっと、これ泣くところ?!」


しかしコルネールは間髪入れずに突っ込んできた。


流石に気付くのが早いし、言わないでよ!と思ったが、

きっかけを作ってくれたコルネールへの感謝の気持ちの方が大きくて、意外にも笑みが溢れた。


コルネールは“まぁ、初日は緊張するものよね“とレイアを軽く慰め、2人は食事を持って先ほど呼んでくれた侍女たちの輪に入っていった。


レイアは、初めての場所で初めて会う人たちと食事を摂りながら、初めての団欒を楽しんだ。



ーー



夕食を終えると、地下にある使用人用の浴室へ向かった。

その後はコルネールと部屋に戻り、明日に備えて早めに就寝することにした。



薬を飲んだ後はいつも読書や勉強をするのだが、ほかほかとする温かい気持ちを心に留めておきたくて、今日は直ぐに布団に潜り込んだ。


そしてレイアは布団の中で、今日1日の振り返りをしていた。

初日から大きな失態をしてしまったことはショックだが、今日関わってくれた使用人たちは皆とても優しかったことを思い返す。


そしてバロンは沢山迷惑かけて良いと言ってくれた。


優しくされるとこんなに嬉しいし、そこで芽生えた温かい気持ちは、失敗して沈んだ心を浮き上がらせてくれるから、不思議と立ちあがろうと元気が出てくる。


だから、一つのことでクヨクヨしていてはダメだと気持ちを切り替えることができた。


そして決意表明をするように、天井を見つめたままポツリと呟いてみた。


「ゼリスさん、私、頑張ります。」


明日への期待を込めて自分に喝を入れ、そっと瞼を閉じた。


初めての環境に気を張っていたせいか、体は思っていた以上に疲れていたようでレイアは気絶するように眠りについた。



ーー



朝、使用人たちが集められた一階の大広間でレイアはバロンから紹介を受けた。

用意された台の上に立ち、40人くらいいる使用人を見渡すと緊張が再び込み上げてくる。


「本日よりお世話になります。レイア・オルゼットと申します。拙いところが多く、沢山ご迷惑かけてしまうかと思いますが、精一杯頑張ります。よろしくお願いいたします。」


レイアの自己紹介は、再び拍手で迎えられた。


「あらま、可愛らしい若者が来てくれるなんて嬉しいねぇ。」

「一緒に頑張りましょうね。」

と口々に言ってくれた。


「レイアさんは本館の使用人となります。主な業務としては、お掃除や諸々の雑務といったところですね。変則的に業務を頼まれることもあるかもしれませんが、その時は臨機応変に対応していただけると助かります。教育係としてエリーをつけますので、教わりながらお仕事を進めて行って下さい。」


と、バロンからエリノアを紹介してもらった。


使用人たちは役割分担がされており、役割ごとに活動場所や内容が異なっている。


また、デクスター邸はハインズの住居となる本館と、侯爵家で抱えている魔術騎士団の宿舎・訓練場等がある騎士団舎に分かれているため、使用人たちも業務場所を割り振られている。


なので、レイアは本館での雑務をこなすメイド、コルネールは騎士団舎の医務班で働くメイドという配置になっている。


レイアはこの屋敷に来たときに出迎えてくれた、明るく優しいエリノアと共に業務にあたることができるのをとても嬉しく思っていた。


「レイアちゃん、改めましてエリノアよ!半世紀は生きてるオババだけど、気軽にエリーって呼んでくれると嬉しいわ!」


「よろしくお願いします、エリーさん。」


分からないことだらけで不安はあるが、エリーの明るい性格と優しい笑顔を向けられると、自分も頑張ろうと力が湧いてきたレイアであった。



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