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ルイスの心配

ルイス、いいキャラですよね。




レイアが侯爵家へ向かうのは面接した日から1週間後となっていた。

時が経つのは早く、この家に居られるのもあと数日となっていた頃。


レイアが居なくなってしまうことを踏まえ、ゼリスは薬学協会から住み込みの弟子を数人受け入れることを決心したそうだ。

長年に渡って、弟子を申し出てくる者を拒んできた故に、"とうとうゼリス・オルゼットが弟子を取るらしいぞ"と薬学界では少し話題になったらしい。


家事や薬作りの人手は確保できたようだと思うとレイアは一安心できたと同時に、ゼリスがこの家にひとりぼっちにならないということをとても嬉しく思っていた。


(あとは、何かやり残していることはないかしら。)


そんなことを考えながら、乾燥させた薬草を粉にするために石臼をゴロゴロと回していた。


すると聞き慣れた声が、工房の扉の方から聞こえてきた。


「こんにちはー!ルイスでーす!」


今週の集荷を配達員のルイスが受け取りに来たようだ。


「おぉルイスか、今日もよろしく頼むよ。」


ゼリスさんに頼まれた荷物を、ルイスは素早く荷馬車に積んでいく。


荷物を運びながら、ゼリスさんと何やら楽しそうに世間話をするルイス。

そんな2人を見たレイアは、自分がいなくてもきっとゼリスは大丈夫だろうと胸を撫で下ろしていた。



「よし、終わりました!」


荷馬車の方からルイスの声が聞こえたので、レイアは配送料を手渡しに行った。

今日もご苦労様でしたと告げるついでに、ルイスに自分はもう此処には居ないことを報告しておくこうと思った。


「あのねルイス。急だけど私、侍女として働きに出ることになったのよ。だから、次ルイスがここに来ても私は居ないのだけど、ここに残るゼリスさんの様子を少し気にかけていてほしいなって思ってて、それで…」


配達の時にゼリスさんの元気な様子を気にかけてほしいことを伝えている途中で、目を丸くしたルイスがレイアの言葉を遮るように驚いた。


「え!?ちょっと待って、レイアが侍女になるの?!ここを出ていくの?!なんでまたそんな急に…!」


まさか彼がそんなに驚くとは思わなかったので、レイアは少し拍子抜けしてしまった。

落ち着きなく質問攻めにしてくるルイスを落ち着かせるように、レイアは自分の意思であることを伝えた。


「友人の誘いから始まって…雇っていただけることになったの。やってみたいと自分で選んだことだから、不安もあるけど楽しみな気もしているの。」


「そう、なのか。…ちなみにどこの家に行くんだい?」


「デクスター侯爵家よ。」


「デ、デクスター侯爵家だって?!」


家名を復唱したルイスの顔が急速に青ざめていく。

レイアは、急にどうしたんだろうと不思議そうに彼を見つめた。


蒼白の顔で俯いていたルイスはバッと顔を上げると、レイアの目を見つめて、意を決したように言った。


「人とは思えないくらいの冷酷無慈悲な侯爵だって有名じゃないか。しかも不気味な魔術を隠しているとかいないとか。それに…というかつまり、今からでも遅くない。レイア、行くのをやめるんだ。」


ルイスの表情は至極真剣だ。


とても心配してくれている気持ちは伝わる一方で、初めて聞いた不思議な噂が耳に残る。


ちらりと噂を聞いただけで尻込みしてしまいそうになったが、噂は噂に過ぎないと思い直した。


「ありがとう。心配してくれるのはとても嬉しいんだけど、噂が本当のことかなんて分からないんだから、そんなこと言っちゃダメよ。」


もちろん不安はあるが、私は自分の目で見たものを信じたい。

その信念は変わっていない。


「でも、そんな噂ばかりの怪しい家にわざわざ行くことないだろう?お願いだ。レイアが悲しい思いをしてからじゃ遅いんだ。」


ルイスが自分のことを心配してくれているのはすごく伝わる。

けれどレイアに今から侍女を断る気は無かった。

だから、何を言えばルイスは納得してくれるのだろうかとレイアは困惑していた。


するとそこへ、中々工房に戻って来ないレイアの様子を見に来たゼリスが近寄って来て、2人の間に立ち、それぞれの片肩に手を置いて言った。


「レイアが掴んだ人生の第一歩なんじゃ。あまり不安がらせるようなことは言わないでやっとくれんかのぅ。」


穏やかな口調でルイスに向けてそう言ってくれた。

加えて、


「それに、王都にはルイスがいると思ったら、ワシは安心じゃがなあ。」


ルイスの方をチラッと見ながら、ゼリスは少しわざとらしく言った。

するとそれを聞いたルイスは目に炎が宿ったようにレイアを見つめ、急に力強い口調で言った。


「任せてよゼリスさん。レイアを危ない目には合わせないよ!!レイア、王都3丁目の区画にトリエント運送の本社があるんだけど、僕は基本そこにいる。だから、少しでも困ったことがあったらすぐに来てくれ。」


レイアを説得することは諦めてくれたようだけど、今度は彼の力の入りようにまた少し戸惑っていた。


「う、うん。ありがとう…。でもルイスが配達に出ていたら、留守かもしれないじゃない?」


「同僚から連絡を受け取ったら、配達なんか中断してすぐに飛んでいくよ!だから安心して!!」


ルイスは仕事を放棄してレイアの元へ急ぐなどというとても良くないことを真面目な顔で言い出した。

それを聞いたレイアは、そんなのダメだと言っても無駄な気がしたので


「そ、そう…。お仕事はちゃんとしてね…。」

とだけ言っておいた。


そして、


(ルイスを訪ねるのは本っ当に困った時だけにしておこう…っと。)


レイアはそう胸に刻んだ。



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