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9:騎士団宿舎の清掃員(仮)


目の前で繰り広げられるのは魔法を使った戦闘訓練だ。剣が交わるたびにキンキンと高い金属音が響いている。剣での攻撃の合間に繰り出される魔法は、もはや目で追いきれないスピード感がある。

何もない場所から水が出て来たり火柱が上がったりド派手なマジックショーでも見ている気分だ。まぁこれは手品ではなく魔法なんだけど。

ただ一つ気になったことと言えば。


(杖を使ったりはしないんだなぁ…)


漠然と、魔法使いとか魔女は魔法の杖を使って魔法を繰り出すものだと思っていた。しかし魔法騎士たちが手に持っているのは剣とか槍とかそういった武器だけである。

何か呪文を唱えているのは分かるのだが、なんと言っているかまでは聞き取れない。早口なのか距離が遠いせいなのか…もう少し近づいたら聞こえないかな……。


「あまり前に出るな。危ないだろう」

「うっ、すみません」


ついつい前のめりになってしまって、隣で戦闘訓練を見ていた(というか指導していた?)ギルバート様に注意される。

私達が居る場所には、魔法が飛んできても大丈夫なように結界みたいなものが張られている。目を凝らせば薄っすらとシャボン玉みたいな透明な膜があるように見えるから多分それが結界なんだろう。

この結界は外側からの攻撃は防ぐことが出来るが、内から出ようとするのは遮ることができない。その為、うっかり頭を飛び出させたりして、うっかりそこに魔法が向かってきたりなんかしたら……危険なのが分かるだろう。


(それにしても、広いな)


ここは騎士団宿舎に隣接している「騎士団演習場」だ。


アルトレッド王国には三つの騎士団がある。

1つ目はギルバート様たちの「魔法騎士団」。

2つ目は、主に王族の護衛などを行う「近衛騎士団」。

3つ目は治安維持などを担う「王国騎士団」。

それぞれイメージカラーみたいなものがあって、魔法騎士は紫、近衛騎士は赤、王国騎士は緑…といった具合だ。制服や旗もそれに準じた色を使用しているらしい。

宿舎も団によって分かれており、それに併設される演習場もそれぞれの団が所有しているものがある、らしい。全てギルバート様から聞いただけなので”らしい”という曖昧な表現になってしまうが、そう言えば確かにあの第一王子とやらに付き従っていた騎士風の男は赤色のマントを着けていた気がしなくもない。……正直言ってあんまり覚えてない。急展開過ぎたからね、仕方あるまい。


それはさておき、今日こうして騎士たちの神聖なる演習場に連れてこられた理由なのだが………


「初めまして、柳本椿と申します」


本来なら初日にするはずだった挨拶をするためである。

初日から色々あって疲労で寝こけていたためにすっ飛ばされたらしい挨拶の場を、こうしてギルバート様が設けてくださったのだ。第一印象は大切だと何かのコマーシャルで見かけたために、こうして礼儀正しく(※当社比)挨拶を繰り広げている。横にはギルバート様、目の前には整列した魔法騎士約100名……睨まれてるのかと錯覚する鋭い視線を一身に受け、引き上げた口角が早くも引きつりそうになる。意識的に呼吸を深くして、口元に微笑みを浮かべる。絵里奈直伝、「儚い笑み」だ。アルカイックスマイルとも言う。


「私が住んでいた国とは勝手が違うと思いますので、ご指導のほどよろしくお願いします」


そう言って再び礼をし頭を上げると、一糸乱れぬ動きでこの国の敬礼を返された。隣に居るギルバート様も満足げに頷いている。

……これは仲間だと認めて貰えたということで、いいのかな?


ギルバート様の号令で演習に戻った皆さまを横目に、さっそく仕事道具の調達に行こうかと思案する。

演習場に来るまでの道すがら、私に出来ることは何か考えていたのだ。


「掃除道具はありますか?」

「…何をするつもりだ?」

「決まってるじゃないですか、掃除ですよ」


騎士団の演習場は屋外と屋内施設の二つある。これなら雨の日でも十分に演習ができることだろう。

屋外に接している廊下はあまり掃除がされていないのか砂ぼこり等で薄っすら……いや、かなり汚れている。人通りが多いところでそうなのだから人気の少ない場所はもっとひどい有様なのではないだろうか。うーん、腕が鳴るね。幸い、掃除であれば道具さえあればすぐに始められるし。


(こういう場所の掃除ってハウスメイドの方がやるもんだと思ってたけど、違うのかな)

「私が触ってはいけない物、見てはいけない物があれば教えてくださいね」


機密事項とか(あるか分からないが)うっかり目撃したらやばそうなので、先に伝えておく。

何はともあれ、これからこの世界で過ごすのなら自分の食い扶持くらいは自分で稼げるようにならないと。

意気揚々と掃除道具片手に歩き出した後ろから、「あまり遠くには行かないように」と言うギルバート様の優しい声が聞こえた。




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