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8:責任重大過ぎませんか


2人でゆったりと紅茶を飲んでいると、ギルバート様と同じ隊服を纏った騎士たちが切羽詰まった様子で副団長室を訪れた。

私にお構いなく、と言えば、騎士達は涙目で書類の束をギルバート様の机の上に積み上げていく。あまりにも必死な形相に驚き戸惑いながらも彼は諦めて書類を捌き始めた。

手持無沙汰に待っていたら、目の前にティーセットが準備されていく。甘い香りを漂わせる茶菓子たちは、どれも美味しそうだ。


(これは……食べていいやつ、かな)


ちらりと用意してくれた騎士に視線を向けると、ジェスチャーで『どうぞ~』といわれたので、有難くいただくとしよう。


え?さっきお昼ご飯食べたばっかりなのにって?

ほら、甘いものは別腹って言うでしょ。






しばらく紅茶を飲んだりお菓子をつまんだり、仕事をしているギルバート様を眺めたりして過ごしていると、粗方の書類が片付いたのか騎士たちが一斉に退室していった。

私の向かいのソファーに腰を下ろしたギルバート様は、すっかり冷めてしまった紅茶を一気に飲み干して話始める。


「今後のお前の扱いだが…」

「はい」


昨日、アレックス団長と話していた時点で「黒髪黒目の一般人(not聖女)」として過ごすということが決まったわけだが、あの後具体的にどうやって過ごしていくか、をギルバート様たちが話し合ってくれていたらしい。


「まず、聖女召喚の儀については、箝口令が敷かれた」


国の方も、異世界人が2人もやってくるとは思っていなかった(あと第一王子が私を追放しようとした)ことから、この儀式について口止めを行おうという結論に至ったらしい。

一緒に召喚された「金髪の少年」のことは、箝口令が敷かれたことによって存在が有耶無耶にされたらしい。これまでの聖女召喚の儀でも召喚されたのは1人だけだったし、あの場に居なかった人達から私が聖女だと思われることもないという。


そもそも聖女召喚の儀は詳細な日時を公開しないまま行われたみたいだ。理由は簡単。召喚の儀に多くの魔法使いが参加するせいで、国の守りが薄くなるから。そんな時に攻め込まれたら大変だもんね。


ちなみに聖女の色彩を持つ者(黒髪黒目の乙女)はこの国には滅多にいないが、絶対に居ないわけではない。ただ、聖女(候補)は教会や王侯貴族が囲って厳重な警備の中に置かれてしまうため、出会えたらラッキーな縁起物的な認識がされるらしい。平民の感覚的には伝説のポ〇モンが色違いで現れたやったね!…って感じかな?


「厳密に言えば、完全に真っ黒な髪色というわけではない。大体は青味がかっていたり紫色が混ざっていたり、つまり他の色が混ざっていたりする。日の光に透かしても真っ黒というのは今まで見たことがない」


そんなわけで私が気を付けるのは、異世界人だと知られないようにすること=召喚者だとバレない様にすること。これが最優先事項だ。


「それと。不便だと思うが、普段から髪の毛と瞳の色が見えないようにしてもらいたい」

「はい、分かりました」


いくら一般人だと言い張ってもどこで私が異世界人だと知られるか分からないし、この色が珍しいならきっと好奇の目にさらされてしまうだろう。妥当な判断だ。

髪色に関しては今日みたいにフードを被っていれば大丈夫だろう。……怪しさ満点だけど。


「…あの、仮に絵里奈が聖女ではないと判断されてしまったら、絵里奈はどうなるんでしょうか」

「良くて生涯幽閉、最悪死罪だな」

「死………!!?なんで、ですか」


…想像よりも重い刑罰が登場したぞ。ていうか聖女じゃなかったら死罪ってどういうことだ。


「この国で聖女を騙るのは重罪だ。それを祀り上げた者も例外ではない。彼女の意思に関わらず、な」


既に絵里奈は「聖女様」として認識されている。言い出したのは神官だが、王族にも聖女だと認識されている以上、無事では済まない。絵里奈も、周りの人も。


つまり。

絵里奈が聖女ではないと判断されたら、最悪絵里奈が死ぬ。たぶん言い出しっぺの神官も重い罰を受ける。

もし私が聖女ですと主張する(あるいは祀り上げられる)と、それが違った場合は私が死ぬ。

「私が聖女です」と言っても「絵里奈が聖女です」と言っても、2人ともが聖女ではない限り、どちらかはこの世から強制退場ってことか…………。


シビア過ぎないかこの世界。


「だから昨日お前が出自を隠して過ごす、と提案した時は正直助かった。無駄な争いは避けたいからな」

「それは、まぁ、そうですね」


私が対抗馬になっていれば本当にどっちもが無事では済まない結末を迎えていただろう。私と絵里奈はもちろん戦うつもりも衝突したいとも思ってないけど、周りが何を考えて何をするかは分からないのだから。血生臭いなぁ~やだな~なんて考えながら、サクサクのクッキーを一枚また口の中に放り込む。うん、美味しい。さっきから適度につまんでいるけれど、バターの香りが口いっぱいに広がって最高に美味である。

ギルバート様も一口サイズに作られたフィナンシェを食べ始めた。外側さっくり、香ばしいアーモンドの風味が楽しめるお菓子は、紅茶との相性が抜群だ。


しばらく無言でお菓子をつまんでいた私達だったが、お皿に残ったお菓子があと少しになったタイミングでふと疑問が湧いてきた。


「聖女を騙るのが罪なら、黒髪に染めるのも罪になるんですか…?」


聖女を騙るのが重罪であるならば、聖女の色彩と言われる黒髪に染めるのはどうなのだろうか。

もしも私が黒髪だとバレて、それが染色している=聖女を騙っていると思われても嫌だし、聞いておくに越したことは無いだろう。

ギルバート様は新しく淹れた紅茶を一口飲んで、私の髪の毛をちらりと見てから口を開いた。


「お前は地毛なのだろう?ならば問題はない」


…その言い方だと染めてたら問題あるみたいじゃないか。


「確かに私は地毛ですが………絵里奈は、地毛は黒じゃないんです」


あれは演劇の為に染めただけで、もとはかなり明るめの毛色なのだ。

染めたといっても正確に言えばあれは黒ではなく濃い紺色らしいけど。ぱっと見は普通に黒髪に見える。それこそ、日の光に透かさなければ分からないレベルだ。

そこで思い出してほしい。先ほどの話と、聖女の条件を。


「………」

「………」


…絵里奈、大丈夫かな。



「染髪は違法ではないから、大丈夫だろう」

「それなら、いいんですけど………」


心配なものは心配なのだ。




この国で聖女の色を持つ者が現れる確率は1/100000くらいです。

ちなみに伝説のポケ…ンの色違いが出る確率は約1/4000らしいです。

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