6:『氷の騎士』と呼ばれる所以(ギルバート視点)
本日2つ目です。長めです。
先程の王宮での馬鹿の愚行を思い出し、頭を抱えたい衝動を抑え込む。
場所を移動して今は魔法騎士団騎士団長室──アレックス団長の執務室へとやって来た。私の隣には、金髪碧眼…ではなく黒髪黒目の女が青白い顔で突っ立っている。無理もない。突然この世界に連れてこられたのに何の説明も無しに追放されかけ、今は厳しい顔の騎士団長と相対しているのだから。
「もう一つ確認なんだが、…お前の、性別は………?」
「女、ですが………?」
(やはり、というべきか…)
いくつかの質問を重ねると、この黒髪の方が本来の姿だと言う。
金髪の少年は、黒髪の女だった。
あぁ、これは本当に大変なことになった。
聖女召喚の儀によって現れた2人の少女。
黒髪茶目の女と黒髪黒目の女。
”聖なる力”の有無はこれから確かめることになるが、それ以外の条件に当てはめるなら、ツバキも聖女に該当する。さしずめ2人は聖女候補ということか。
しかし先ほどグレイアム殿下は、公衆の面前でこの少女を「部外者」だと仰った。そしてあろうことか追放しようとした。
「これ、外部に漏れたら駄目な話では………?」
苦々しい顔で頷くアレックス団長。早々にこいつを引き取ってむしろ良かったかもしれない。あの場でこのことが露見するより遥かにましだ。
──もし、ツバキが真に聖女様だとするならば。
この国の王族は聖女様を蔑ろにしたと言われても無理はない。というか実際そうだ。
それだけで済めばいいが、こんなことが民に知れ渡ったら王家、ひいては国に批判・反発が集まっても仕方ないだろう。それだけの事が、今ここで起こっている。
聖女が大切なのはうちだけじゃない。他の国に取られでもしたら大損害だ。
それを除いてもこの国からこいつが居なくなるのは…
(私が、嫌だ)
もしそんなことになれば、私は己の理性の箍をすぐにでも取っ払って誰にも邪魔されない場所にこの少女を閉じ込めてしまうだろう。魔法使いにとって”運命の恋人”とはそれほどまでに重要で、ある意味聖女であることよりも大事だ。
いっそのこと今この瞬間にでも連れ去ってしまおうか…──そこまで考えて思考を振り払う。
魔法使いは愛情深いことで知られているが、総じて独占欲と嫉妬心が強いことも知られている。……あぁ、ならばこれは、魔法使いの性なのだろうか。
しかしそうだとしても。これは会ったばかりの少女に向ける独占欲ではない。
さて、どうしたものか…。
短くない沈黙を最初に破ったのは、ツバキだった。
「えーーと、じゃあとりあえず『私が聖女かもしれない』ということを隠しつつ、聖女が誰なのか、それともどっちも聖女なのか判明するまでやり過ごせばいいんじゃないですかね?」
(…それ、は)
それはあまりにも魅力的な提案で。
「この国にとって聖女ってすごく大切な存在なのでしょう?私が聖女でなければそのまま過ごすにしろ異世界人だと正体を明かすにしろ好きにすればいいはずですし、もし聖女なら”聖女様の切なる願いを聴いて、その身分を隠していた”とかなんとか言っちゃえば丸く収まるとは思いませんか?」
かなり突拍子もないことを言っていると自覚はあるのだろう。強張った顔からも、緊張しているのが伝わってくる。
「今の私はこの国の第一王子に見放され、あなた方に救われた身。誰がどう見てもあなた方を悪く言うことはできないはずです。………あなた方は異世界人を保護した人達にしかなり得ません。私の立場がどうなろうとも」
自分の置かれた状況を正確に理解しているからこそ、彼女は賭けに出ている。
「その代わりと言ってはなんですが、私をここに置いてくれませんか。…お2人にはご不便おかけしますが、お願いします」
肩から落ちた黒髪がさらさらと流れ、光を柔らかく反射する。
これに失敗すればツバキは何の後ろ盾もないまま、見知らぬ土地で過ごさねばならない。成功すれば、膨大な知識を持つ……国益となる異世界人を保護した、という名声を売れる。自分の立場を正確に理解しているが故の取引だった。
──いや、そんなこと考えてもいなさそうだな。
こっちは王家の不祥事を隠したい。
あっちはこの世界での生活の保障が欲しい。
利害の一致ではあるが、こちら側のうまみが多すぎるように思えた。
同じ事を考えていたのか、アレックス団長は詰めていた息を吐いて、顔を上げるように言う。
「むしろ俺たちにしてみれば願ってもない提案だ。お前を保護すること、ここに誓おう」
「ありがとうございます!」
安堵の表情でもう一度深く頭を下げた少女は、この世界に来て初めて、作り物じゃない笑顔を見せてくれた。
花がほころぶような笑顔とはまさにこのことを言うのか。
(可愛い)
笑顔だったのは一瞬だったが、最たる心配がなくなった為かどことなく柔らかな表情になっている。
いくつか質問を繰り返したツバキは、おそらく一番の懸念事項なのであろう質問を口にする。
「では、王宮で私を引き取ってくれたのは何故でしょうか。あの時点であなた方にメリットがあったとは思えないのですが」
なぜ保護したのか、と問われたら。
(私の”運命の恋人”だから、とは、言い難いな)
恐らくアレックス団長は、儀式の場で私の魔力が私の意思に反して漏れ出たことに気付いたのだろう。それがイレギュラーな事態だと言う事も。
私は、自分でいうのもなんだが、魔法騎士団の副団長を務める男だ。魔力制御には人一倍自信があるし、実際私よりも制御が上手いのなんて目の前のこの人くらいだろう。
だからこそ、彼は気付いた。自分と同じく、”運命の恋人”に出会ってしまったのではないか、と。
問われたアレックス団長は、ちら、とアイコンタクトで「言ってやろうか???」と聞いてきたので丁重にお断りした。
この国で”運命の恋人”とは私に対しての不思議な力を持つツバキのような存在のほかに、『一生涯離れないと約束した仲睦まじい伴侶』に対しても使われる。むしろ本来の意味で使われることは滅多にない。つまりこれは……プロポーズするのと同義だ。
それを出会って一日の相手に告げるのは、流石に重いだろう。
(手放せるとは思えないが)
「あ~~、まぁ、なんて言うか……そっちのが面白そうだろ?」
「おもしろそう…ですか」
納得はしていないようだが、アレックス団長がそれ以上を語ることはないと感じ取ったのだろう。しばらく質問を続け、ツバキの気になっていたことを全て聞き終わったところで、一旦部屋まで戻ることになった。
謝罪のタイミングを逃しに逃したあのハプニングについて、謝るなら今の内と思ったのが間違いだったのか。
「………悪かった」
「──それは、何についての謝罪でしょうか…………?」
本気で何について言っているのか分からない、という表情で見つめられ、思わず眉間に力が入る。もしや私は男として見られていないのではないだろうか。そう考えると………あぁ、先が思いやられるな。
私と同じく立ち止まったツバキは、こちらが続きを言うのを待っているようで、じぃっと私の様子を窺っている。
何もかもを見透かしてしまいそうな漆黒の瞳に見つめられ、何となく居心地が悪くなって視線を逸らした。到底謝罪する態度ではないと思うが、見つめ合いながら会話をするのはまだ無理だ。今だって、心臓が壊れそうな程うるさくて仕方ない。
「先ほど、ノックもせずに扉を開けてしまっただろう。男だと思っていたとはいえ…着替え途中の姿を見て、すまないと言っている」
「あー………いえ、こちらこそお目汚しを…すみません」
「…………お前が謝る必要はないだろう」
ただ忘れていただけだと安心したものの、逆に謝られてぶっきらぼうな返事しかできないのが悔やまれる。
それきり、完全に会話が途切れたままついに一言も発さずツバキの部屋の前までついてしまった。
「私の部屋はこの角を曲がって突き当りにある。何かあれば声を掛けてくれ」
「はい。………いつでもいいんですか?」
「今日の所は、な。演習がない時は大抵あの部屋か副団長室に居る」
団長室のほど近い場所に副団長室がある、と教えれば気の抜けた返事が返ってきた。
本人は隠せているつもりらしいが、歩いている時から欠伸を噛み殺しているのは知っている。
「夕食は一刻半後だ。それまで休んでいなさい」
自室に戻り、革張りのソファーにどかりと腰を掛ける。
(魔力を押さえつけるのに、これだけ気力を持っていかれるとは想定外だったな)
部屋の中に満ちていく己の魔力を肌に感じながら、息を吐く。
運命の恋人に出会った魔法使いは、自身の魔力が今までの倍くらいには増幅する。しかし、急激な増幅により受け止めきれない余剰分は、体外へと溢れてしまうのだ。
無暗矢鱈に魔力を放出するのは魔物や魔獣を威嚇・刺激し、かえって引き付けやすくなり危険である。そのため今の私は常に濃い魔力の膜を身体に纏わりつかせ自身を守る結界にしている。魔力許容量が増えるまでは、こうして過ごすしかない。
魔力を圧縮しそのままの形を保たせるのは、繊細な操作が必要だ。
つまり、単純に疲れる。
魔力は無限ではない。使えばその分減るし、疲労だって溜まる。回復させるには休養を取ったり食事で補ったり…………性欲を発散することでも魔力は回復する。要は三大欲求を満たせばそれに伴って魔力も回復するのだ。
聖女召喚の儀で失われた魔力は、運命の恋人と出会ったことで回復した。
なので今は体力を回復させるために休養を取る必要があるようだ。
ソファに座り直し、腕組みをして目を瞑る。本来であれば今の時間帯は執務室に籠って書類仕事をしているのだが、急ぎのものは朝のうちに終わらせているし、そもそも私の仕事の大半がアレックス団長に押し付けられた分だ。ならば、明日に回しても問題はないだろう。
頭の中で上司が泣きついてくる未来を想像しながら微睡みに身体を委ねた。
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約束の時刻になってから、ツバキを迎えに部屋の前まで移動した。一度深呼吸して、扉をノックする。
しかし中からは何も反応がない。
聞こえなかったのかと思い、もう一度ノックする。
「ギルバート・オルティスだ、部屋に入ってもいいか」
声を掛けても見るが、やはり反応はない。別れた時ツバキはかなり疲労を抱えているように見えたし、寝ているのだろうか。…それとも意識を失って倒れているのだろうか。
「……10秒以内に返事がなかったら中に入るからな」
もし、意識を失っているのならば、安全のためにも様子は一度見ておいた方が良い。倒れた際に頭を打ってそのまま……なんてことがあったらと考えるだけで、指先が冷たくなっていく。
程なくして10秒経った。
扉を開けると中は灯りすらついていない状態だった。
ゆっくり足音を立てないように慎重に寝具へと近寄ると暗闇の中に小ぶりの人影が横たわっているのが分かる。
「…………すぅ、…すぅ」
規則正しい寝息と微かに動く身体がちゃんと生きていることを伝えてくれる。
詰めていた息を吐き出す。落ち着いてその姿を眺めていると、何か既視感を覚え……あぁ、あれだ。黒猫だ。ベッドの上で体を丸めて眠る姿が、この間見かけた黒猫を思い出させる。
真っすぐに見つめてくる意志の強そうな瞳は伏せられており、豊かな睫毛が頬に影を落としている。黒色の髪の毛は艶があり触れば絹の様に滑らかだろう。真っ白なシーツに散らばった黒髪が、一つの芸術作品のようで美しかった。
安心しきった様子で寝息を立てているのを無理して起こす必要はない。
ツバキを起こさないように気を付けつつベッドの外に落ちた足を移動させ、風邪をひかないよう身体の下敷きになっていた毛布を掛け直してやってから、ふと顔を覗き込む。先程は気付かなかったが、瞼の下に薄っすらと隈が出来ている。
疲れているのならば存分に寝ればいい。
どうせ夕食を食べ終えた後は明日の予定を伝えてすぐに休んでもらう予定だった。それが少し早まっただけの事。
「おやすみ、ツバキ」
灯りを全て消して、扉の前まで来たところで暗闇の中に囁く。彼女が起きている間には呼べなかった凛とした響きを口遊み、未だに眠り続ける姿を見収めて静かに部屋を出た。
移動中の道すがら、考える。
たった数時間。出会ってからまだ数時間しか経っていないというのに、こんなにも。
──愛しく思っている。
胸の中心にある燈火は、時間が経つごとに、彼女と会話を交わすごとにちりちりと燃え広がっていった。こんな気持ちになるのは初めてで、でも不思議と心地よくもあって、これ以上愛しく思うことはあるのかと考えた次の瞬間にはもっと強い感情を覚えていて。
あぁこれは本当に手放せなくなるな。と、頭のどこかでは冷静に考えれるのに、もっともっとと際限なく求めてしまいそうになるのが可笑しくもあり怖くもある。
今日までの人生で、自分がこれほど人間らしいと思った事はない。
『氷の騎士』とまで呼ばれた私が、こんなに心乱される存在に出会うことになるとは思いもしなかった。
「失礼します」
「あぁ、もう来たのか。ツバキはどうだった」
「眠っていたのでそのまま寝かせています」
じゃあ早速本題に入るか…、と前置きした団長は残っていた書類を手早く終わらせて自ら紅茶の準備を始める。座って待ってろ、と視線で促されソファーに腰を下ろした。
「それで?やっぱりあの娘はお前の運命の恋人なのか?」
「…………はい、恐らくそうかと」
私は今、再び騎士団長室へと戻ってきていた。夜の帳が下り、演習を終えた騎士たちが夜勤の騎士たちと入れ替わるこの時間帯に、アレックス団長に呼び出されていたからだ。
聞かれたのは、やはりと言うべきか、私の魔力漏出の原因となった人物…運命の恋人に関するものだった。
「ま、あれだ。あんまり暴走し過ぎんじゃねぇぞ」
「重々承知しています。…貴方には言われたくないですが」
「ははっ、俺は良いんだよ。丸く収まったんだし」
……丸く収めた、の間違いだろう。
彼、アレックス団長は、今から15年ほど前に運命の恋人と出会い…数々の事件を起こした。
彼女に無体を働こうとした者を半殺しにしたり(その中には冤罪の者も混ざっていた)服飾家になりたいという願いを叶えてやるために親族を黙らせたり(物理)あまりの暴走っぷりに逃走した彼女に軟禁まがいのことをしたり…壊れた建物は20を超えたあたりで数えるのを止めた。ここに挙げた以外にも団長のしでかした事は魔法騎士団員に知れ渡っている。
「『氷の騎士』がこんなんになるなんて誰も思わねぇよな~」
自分の事は棚に上げて尚も言い募る団長を睨み返し、まぁこれについては自覚があるので口を噤んだ。
もともと魔力制御のために感情を抑える訓練はしていた。他よりも魔力を多くして生まれた私は、幼いころから「常に己を律しろ」と言われ育ってきた。精神の安定は魔法の安定に繋がるからだ。自身の魔力量が凡そ子供らしくないのは解っていたし、その教育のおかげで重大な魔力暴走を起こさずに済んだが、その代償として人よりも感情の起伏が少ない人間に成った。
戦場で幾人の命を散らしても、舞踏会で絶世の美女に言い寄られても、強い感情をあらわにしない氷鉄の仮面。
氷の彫刻みたいに整った容姿と”血が通っていない”と揶揄される冷酷無慈悲な態度と、氷魔法の使い手だということが追い風となって、『氷の騎士』と呼ばれるようになった。
「それで、今後のツバキの扱いなんだが……お前の運命の恋人だろうってことは、もう魔法騎士団内には知れ渡っている」
「…あの状況では、仕方ないでしょう」
聖女召喚の儀では、私達以外の魔法騎士団員も十数名が魔力提供に参じていた。魔法騎士団員は、総じて魔力感知が得意だ。なので私の魔力漏出にもその原因にもとっくに気付いているだろうとは思っていた。……少々知れ渡るのが速い気もするが。
「そう怖い顔すんなって。団の中にしか広まってないのは確認したし、むしろお前の唯一なら魔法騎士は手ぇ出さねぇだろ」
「それは、そうですが…」
「取られるのが心配なら既成事実だけでも作っちまえばいいんだよ」
「っ冗談が過ぎますよ。……それにツバキはまだ子供でしょう」
全く悪びれていない様子で謝ってくるアレックス団長は、一杯目の紅茶を飲み干して、胸元から一通の手紙とメッセージカードを取り出した。
「あと、朗報だ。宰相殿が今回の聖女召喚の儀に関して箝口令を敷くよう王に進言なさった」
メッセージカードには宰相の直筆で、王に進言したことが書かれている。
この国の宰相は現国王陛下の友人で右腕で、とても頭の切れる人だ。聖女召喚の儀に来れない国王の代わりに出席していたのは知っていたが、すぐに箝口令を敷くべきだと判断したらしい。
アレックス団長の手には、開封された痕跡のある手紙があった。
「で、つい半刻前に国王から”今回の聖女召喚の儀に関する全ての事柄に箝口令を敷く”とお触れが出た」
手渡された紙にさっと目を通す。簡潔に必要事項だけまとめられた中身は、確かに儀式についての箝口令を敷く、という内容が書かれていた。
理由は聖女の力について確認事項があるため。と言う事になっているが、十中八九「グレイアム殿下の愚行を誤魔化すため」に敷いたと考えられる。我々にしてみればこの箝口令は好都合だ。
これで金髪碧眼の少年の存在を隠すことが出来た。
「と言う事で、ツバキは黒髪黒目の乙女だが、聖女召喚の儀で現れたことにはなってない」
聖女召喚の儀で現れた黒髪の乙女は、今は王宮に居る。ツバキが黒髪だと判明したのは騎士団宿舎に戻ってからなので、聖女の条件のうち大前提を通過していないツバキは「聖女と同じ色を持つただの少女」と言う事になった。
これで儀式を知っている人間から金髪の少年について尋ねられる心配も、黒髪を持つツバキが聖女だと言われ王宮に攫われる心配もなくなった。
「今日のうちに根回しは済ませとくから、お前はもう休んどけ」
「……はい、ありがとうございます」
最低でもこれだけは、という条件を伝えて団長室を去る。
1つ、ツバキが私の”運命の恋人”だと団内に公表すること。
1つ、それをツバキ本人に伝えてはならないこと。
1つ、金髪の少年とツバキは別人ということにすること。
最後の一つは外部の人間からツバキの事を聞かれた際に、「聖女召喚で現れた人物と同一である」ということを話さないようにする意図がある。態々こう言えば、その意図を正しく読み取ってくれる優秀な奴等だ。
──外部の人間には情報を漏らすな。しかし、魔法騎士団内では聖女候補として彼女を扱う事。
ちなみに常時展開中になっている結界については「人工魔石でも作ればいいんじゃねぇか?何個か作ればマシになるだろ」と言われたので解決した。
魔石とは魔物から採れる稀少性の高い天然石のことで、主に装飾品に加工され高値で取引されるものだ。その実ただ魔力が結晶化しただけのものなので、魔力が豊富な者であれば人工的に生み出すことが出来る。
自室に戻り2つほど生み出してみて、暴れまわっていた魔力が辺りを揺蕩う程度には落ち着いた。
掌には薄く水色がかった石が転がっている。一粒が大きく作れたから、どう加工しても使えるだろう。
(これだけの魔力を一度に使うのは、なかなかキツイな)
余剰分だとしてもごっそりとなくなった魔力を補うように、急激な眠気に襲われる。ハンカチに石を包んで、辛うじて式典用のマントが付いた上着を脱いだが、これ以上意識を保つのは無理そうだ。
そうして私は、ベッドに倒れ込むようにして深い眠りに落ちた。
次回からは、椿視点でのお話に戻る予定です。
今更ですが不定期更新になっております。お待ちいただけると幸いです…。