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3:緊急事態(らしい)です


急いで着替え扉の前まで駆け寄ると、向こう側から「入ってもいいか」と静かな声で問われた。

少しだけ開けた扉から滑り込むように部屋の中に入ってきたギルバート様は、後ろ手に扉を閉めて私の頭からつま先までを観察し、


「はぁ…………」


大きなため息を吐いた。

眉間の皺をほぐすようにぐりぐりと揉んでいる様子からして、なにか疲れるようなことが起こっているらしい。

はい、すみません。どうやら私に問題があるみたいです。一応渡された服そのまま着ただけなんだけどなぁ…。


「お前、先ほどまでは金髪だったな」

「あれですか?あれはウィッグ、…かつらです」

「目の色は」

「それはカラコン………えーーー、眼球に張り付けて普段の色とは違った色に見せてくれる高度医療機器です」

「顔、違くないか」

「さっきまで化粧(※男装用)してたので」

「…つまりお前の本来の姿はそっちなんだな?」

「はい、まぁ、そうなりますね」


軽い尋問のような空気を感じながら、私は嘘偽りなくギルバート様の質問に答えていく。

本来の姿、という言い方に若干迷いながらも、まぁ初対面が金髪(ウィッグ)碧眼(カラコン)きらきら王子様風衣装(服飾科の皆の力作)なら仕方ないかと勝手に結論付ける。

そして今の私は、いわゆる本来の姿というもので。

下ろした癖のない黒髪は胸の真ん中あたりまで伸びていて、瞳は黒。身長は、現代日本では大きいとも小さいとも言えない(ギリギリ高めの分類はされるかな?程度の)160㎝程度。顔は…………うん、普通だ。

貸して貰ったのはごく普通の白いワイシャツに黒のスラックス。多分騎士たちが着ている物と同じやつだろう。

そんな私の本来の姿を見てもう一度盛大なため息をついた後、ギルバート様はコンパクトミラーのようなものを取り出してそれに向かって話し出した。


「…団長、緊急事態です」









ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー









(私は何かとんでもないことをしてしまったのだろうか)


先程のギルバート様同様、私の姿を確認した後ため息を吐き更には顔を片手で覆って天井を見上げる赤髪の御仁…アレックス団長は「嘘だろ」とか「まじでか」とか独り言をぶつぶつと呟いている。


怒られることは何もしていない、と思う。そもそもこっちに来てまだ一日も経ってないし、流石にこの短時間では何もできないし。

あれか?着替えるのがダメだったのか??

もうそれぐらいしか思いつかないぞ私は。


ぐるぐると見当違いな事を考え始めた私の隣で、ギルバート様が咳ばらいをする。気を取り直して椅子に掛け直したアレックス団長はようやく口を開いた。


「確認なんだが、ツバキ。お前の髪の毛と瞳の色は元々黒なんだな?」

「はい、そうです」


さっきもギルバート様に確認されたのだが、それが一体どうしたって言うのか。


「もう一つ確認なんだが、…お前の、性別は………?」

「女、ですが………?」


あっ、おふたりが遠くを見つめだしてしまった…。


(なんとなくだけど、良くないことが起こっているのは分かった)


私もさ、なんか会話の端々であれ?って思うことはあったけど。

まさかほんとに男(しかも多分中学生くらいの)に思われてたのは、ちょっっとショックだけど。

それにしたって、2人の落ち込み様は異常ではなかろうか。

ぼんやりと目の前の赤色を眺めていると、彼は急に立ち上がって私の目の前に移動し、片膝をついた。


「!?え”っ、あのッ、何してんですか……………!!?」

「まずは、これまでの非礼お詫びします。大変申し訳ありません」


騎士団長ともあろう方が、異世界から来た小娘相手に跪いて謝罪(しかも丁寧な口調で)している────!?

助けを求めるように隣の騎士を見やれば、こちらもアレックス団長同様に跪いていて、喉の奥から「ひぇ」と情けない音が鳴った。この御仁達に頭を下げられるような人じゃないですよ私は………!!


「お願いですから2人とも頭を上げてください……ッ」


あと跪かないで………!!怖いから!!

私の悲痛な声を聞いて、2人の騎士はようやく頭を上げた。しかしその顔色は芳しくない。視線で説明を求めると、アレックス団長は「落ち着いて聞いてもらいたい」と前置きをしてから一度深く息を吸い込んだ。心臓の音が聞こえてしまいそうなくらい静かな部屋に、アレックス団長の硬い声が落とされる。


「貴女が真の聖女、かもしれない」


彼は真剣な面持ちで聞き捨てならない台詞を言い放った。




真の、聖女?


誰が、……えっ、もしかしなくても今のは私に言いました?

つい先程この国の第一王子に「部外者」呼ばわりされた、私に???


そんなまさかとは思ったけれど、アレックス団長のガーネットみたいな赤い瞳が、逸らされず真っ直ぐに私の事を捉えているから。

冗談ですよね、とか嘘おっしゃい、とか急に”貴女”って呼ばれても、とか。そんな事言える雰囲気でもなくて。




「……………は?」


たっぷり数拍置いて、辛うじて騎士団長室に響いたのは私の間抜けな声だった。


確かにこれは緊急事態である。




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