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2:扉はノックしてから開けるものでは?

2023.09.03 編集

2024.01.08 編集


王宮の庭は流石としか言いようがないほど美しく整備されていた。色とりどりの花達は流し見しているだけで癒される。


「突然この国に飛ばされたにしては、随分冷静だな」

「…………えっ、いえ、すごく驚いてますよ、これでも」


いきなり話しかけられて反応が遅れてしまったが、隣を歩いている銀髪の青年はさほど気にしていない様子で「そうか」と呟いた。

いつの間にか私の隣にいたこの青年だが、私が気付かなかっただけで王宮にいた時から赤髪の御仁のすぐ後ろで待機していたようだ。


(それにしても………)


ちら、と横目で彼の顔を盗み見る。


(この国の人は皆顔が良いな…………)


スッと通った鼻筋に日焼けを知らない白い肌。伏し目がちにした瞳は切れ長で、それを縁取る睫毛は頬に影を落とすほど豊かで長い。

銀色と水色を混ぜたような日に当たるときらきら透ける綺麗な髪色に、夜空を思わせる紺色の瞳はどこか冷たい印象を受ける。


「……………」


さっきから無言で歩き続けているけど、どこに向かっているんだろうか。王宮?みたいな所から離れていってるのは分かるんだけど…。

そんな思考が伝わったのか、横の青年はこちらに目も向けずに言う。


「今向かってるのは騎士団の宿舎だ」

「騎士団……」


騎士……そうかやっぱりここはナーロッパ的な世界線なんですね?

ついでに言うと召喚の儀?とかもさ、いかにもって感じがするよね。


「お二人は騎士、なのですよね?」


何をいまさら、という視線を隣の男性は向けてくるが、私は彼らの事を何一つ知らない。突然この国?世界?に連れてこられたんだから知らないのは当然だろう。

唯一分かっているのは、腰に下げてあるのはきっと本物の剣だろうということ。

私のもの(小道具)とは違って。


「俺は魔法騎士(・・・・)団団長、アレクサンダー・コックスフォード。そっちの顰めっ面してんのが副団長のギルバート・オルティス」

(あ、この人素では「俺」呼びなんだ)


騎士団長と名乗った赤髪の御仁は「長いからアレクかアレックスでいいぞ」と人懐っこい笑顔をしていた。

対して私の隣を陣取って”逃がさないオーラ”を醸し出している御仁──ギルバート・オルティスは、顰めっ面…というより最早無表情で、私をちらっと横目で見た後はすぐに視線を前に戻した。

逃げると思われているのか?この国どころかこの世界について何も知らないのに?なんの力も持っていない一般人なのに??

……と、いうか。

騎士団の団長・副団長って結構偉い人では?

数多の恋愛小説(舞台:中世ヨーロッパ)を読み漁った私には分かるぞ。役職付きの騎士は社会的地位が高いのが定説なのだ。


「団長様と副団長様でしたか。先ほどは助けていただき有り難うございます。あのままでは、路頭に迷うことになっていたでしょうから」


あはは、と乾いた笑いを漏らせば、横からも斜め前からも捨てられた子犬を見る目で見つめられた。いや、むしろここは盛大に笑って流してほしかったんですが………。

しばらく気まずい時間を過ごしてふと気付いた。


(あれ…そういえばまだ名乗っていない、よね……?助けてもらったのに名乗らないのは失礼、だよね?)

「…申し遅れました、柳本(やなぎもと)椿(つばき)と申します。あっ、柳本がファミリーネームで、椿がファーストネームです」

「あぁ。よろしくな、ツバキ」

「…よろしく」


話がひと段落ついたタイミングで、先ほど聞きそびれた疑問を投げる。


「あの、この世界には魔法があるんですか」

「聖女様達の国には無かったのか?」

「国、というか世界中どこ探しても魔法は存在してませんね」


創作物の中でしか出会ったことは無い。

改めてすごい世界に来てしまったもんだ。






他愛ない話をしていると騎士団の宿舎らしい建物は割とすぐに見えてきた。

宿舎の近くには演習場があるのか金属同士がぶつかる音が聞こえてくる。

そうして辿り着いた先、銀髪の青年──ギルバート様に案内されたのは1つの扉の前だった。


「ここがお前の部屋だ。急ごしらえで悪いが、我慢してくれ」

「何から何まですみません。ありがとうございます」


わがままを言って「動きやすい服を貸してもらえないか」とお願いしてみたところ、どうやら二人とも私の服装(というよりこれは衣装なのだが)が普段着ではないだろうと考えてくれていたみたいで、既に着替え一式と部屋が用意されていた。


やっとこの暑苦しい衣装から解放される……。


今の私の格好はどこぞの国の王子様か???っていうくらい華美な衣装を纏っている。まぁ演劇で王子様役をやっていたのだから仕方ない。無駄にキラキラした衣装は舞台映えするのだが、その分重量感がある。おまけに金髪のウィッグもかぶっていたから暑いことこの上ない。碧眼に見えるよう選んだカラコンも取っていいだろう。さっきからずっと目がしぱしぱしていた。

用意してもらった服は、私には少し大きかったけど着れないこともないしそのまま着用できるだろう。流石に女物の下着は無かったのでさらしは巻いたままで。


(あれ…この衣装、なんかボロボロになってない?)


召喚されたときのあの白い光は攻撃性のある類のものだったのか?にしては身体は何ともないし……。

きらきらしいジャケットを眺めつつそんなことを考えていると、何の前触れもなく扉が開いた。


「それと、このあとの予定なんだ……が」

「えっ」


ノックもせずに開けられた扉の向こうには、先ほど別れたばかりの騎士様が口をぽかんと開けて突っ立っていた。対して私の服装はというと、上はワイシャツに腕を通しただけ、下は今履こうとしてたので下着姿なわけでして。いや、上はともかく下は角度的に見えていないはず……っ。

見つめ合うこと数秒。先に我に返った私は、ぎこちなく笑った。


「………とりあえず、扉閉めて貰えませんか?」


この国では扉はノックしないで開けるのが普通なのだろうか?

違うことを祈る。




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