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13:いざ、王宮図書館へ


この国、いや、この世界について私は何も知らない。

……と言う事で、やって来ました『王宮図書館』。踏み入れた瞬間に感じる本の香りが何とも言えない良い匂いです。


事の発端は先日『この国に図書館はないのか』と聞いてみたことだった。ぶっちゃけ「図書館くらい流石にあるだろう」と思って聞いてみたんだけど、答えはビンゴ。王家が所持する数多の本が置いてある王宮図書館なるものがあるという。


普段の私は、掃除が終わって時間があるときや休憩時間なんかは専ら本を読んで過ごしている。

いや休憩時間と言うか、そもそも私が騎士団演習場近くで掃除をしているのはギルバート様も一緒にいる時間帯だけだ。それ以外は、ギルバート様が執務室に戻るのについていってソファーで待っている。ギルバート様曰く「何かあった時にすぐ対応できるよう傍に居て貰いたい」とのことだ。問題児扱いか?とも思ったが、まぁ、この国の常識もあやふやなんだから仕方ないかと思ってギルバート様の言う事をちゃんと聞いている。

で、その時間はどうしても手持ち無沙汰になるから、執務室に置いてある本(兵法とか魔物の特徴とかが書かれている本が多い)とか、ギルバート様たちが個人的に所有している本をお借りして読んだりしている。


そんななか図書館があると聞いた私は、聞いた日にすぐさま図書館に行きたいと申し出たのだが、ギルバート様からストップがかかった。

この国…というかこの世界では本はとても高価なものだ。一冊金貨1枚からとかざらにあるらしい。金貨の価値は分からないけど、少なくとも前と同じように気軽に手に出来るものではないのは分かった。

それゆえに、王宮図書館に出入りできる者は身元が確認された人のみであると教えられた。

…異世界から来ましたなんて証明できるわけなくない?おまけに私は今「異世界人でも何でもない、ちょっと前からここで働いてる謎の少年(仮)」だからね。


無理じゃん、入れないじゃん。


と思ったんだけど、どうやら身元が確かな人から紹介状(?)みたいのを貰うと私みたいな身元不明人でも図書館に足を踏み入れることが出来るのだそうだ。で、その紹介状みたいなのを発行するのに大体3日かかるとか。


その場ですぐに紹介状を発行してもらえるようお願いして待つこと3日。


紹介状ははがきサイズの薄い青の紙で出来ていて、私の身元をギルバート様が保証しますよ~この人()が何か問題を起こしたらギルバート様が責任取りますよ~的な内容を堅苦しい様式で記したものだった。

フード付きマントの隠しポケットに仕舞い込んで、私達は王宮図書館に向かった。






目の前に広がるのは、本の山。圧巻である。


「わ~………すごく、本がたくさんありますね」

「図書館なのだから当たり前だろう」


くすりと笑うギルバート様に手を引かれて図書館の受け付けスペースっぽい場所まで足を進める。横目で本の山をうっとりと見つめながら、紙とインクの匂いを胸いっぱいに吸い込んだ。私は元々、本を読むのは好きなんだ。最近はネット小説ばかり読んでいたけど、紙の本も好き。主に読むのは小説だったけどエッセイ本とかも割と好きだった。

あぁ…ここにある本を読むだけで何年かかるだろうか。想像するだけでわくわくする。


「私は執務室に戻るが、何かあった時はここの通信機を使って連絡を入れてくれ。…くれぐれも、一人で図書館から出ないように」

「はい、分かりました」


図書館の受け付けには通信魔道具が置かれているらしい。ギルバート様曰く、王城の重要箇所にはいつどんなときでも連絡が取れるように通信機が置いてあるのだそうだ。

ギルバート様が執務室に戻るのを見送って、司書さんに声を掛ける。


「あの、本を借りることは出来ますか?」

「はい。借りる際はカウンターまでお越しください」

「分かりました、ありがとうございます」


今日ここで読み切れなかった分は、暇なときにも読める。かなり嬉しい。

フードを被ったままの怪しい風貌でも表情一つ変えずに対応してくれる司書さんにお礼を言い、図書館の中を進んでいった。

早速何冊か目ぼしいものを見繕って机と椅子があるスペースに向かう。

窓の向こうには美しい庭園が見える。色とりどりの薔薇が辺り一面に咲き誇る様は見事な仕上がりだ。きっと庭師の腕がいいのだろう。

よくよく窓を見つめていると薄っすらと魔法陣のようなものが見えた。うん、これも調べてみようか。国の歴史が書かれてるっぽい本と、植物図鑑っぽい本と、薬の作り方が書かれている本を読んでからだけど。


ざっと読んでみてわかった国の歴史、というか成り立ちはこうだ。



──ある土地に美しき娘が居た。その娘は神に愛された女だった。


美しく心清らかな娘は、癒しの力を持っていた。


娘は彼らを癒し、彼らは娘に感謝した。娘は彼らを愛し、彼らも娘を愛していた。


ある日、一人の傷だらけの若者が娘の前に現れた。その傷は黒き獣を倒した証だった。


娘は若者を癒し、一人勇敢に戦う姿に心を揺さぶられた。


また、若者も娘の心優しさに胸を打たれた。


そうして若者と娘は恋に落ち、この土地を永住の地と定めた……──



成り立ちはこんな感じで、あとは今までの王族がどんな治世を築いてきたかをサラッと読んで終わり。歴史系は読むのに時間がかかるからまたの機会にじっくり読もう。

植物は知っているものもあれば異世界特有の植物ももちろんあった。花の蜜に魔力回復効果があるとか、いかにもファンタジーっぽくて面白い。(ポーション)は大体が草をすりつぶして水と煮込んで、魔力を加えると出来るみたいだ。薬効に合わせて追加する物も変わるけど基本はこれだ。ちょっとポーション作りとか憧れてたんだけど果たして私に魔力はあるのか……あとでギルバート様に聞いてみようかな。

最初の三冊を読み終えたので次の本を探しに行く。次は魔法陣の本と魔道具の本を読んでみたい。

広い図書館の中をぐるぐる回って、魔法関連の棚にたどり着く。

魔道具の本は……見つけた。けど、結構高い位置に置かれている。取れるかな?

この国の人達はみんな結構背が高い。それに合わせて作られているのか、家具もちょっと高さがあったり大きかったりする。


(あとちょっと…届きそうで届かない……)


ぎりぎり届くか届かないか絶妙な高さに置いてある本は、残念ながら私の背丈では届かなかった。

大人しく脚立かなにかでも持ってこようと本棚から身体を離すと、ふいに影が差した。

男物の香水の香りと、甘く柔らかな低音が耳に届く。


「欲しい本は、これかな?」


上から伸びてきた手は、お目当ての本を抜き取りそのまま私へ差し出した。タイトルは「魔道具の変遷~生活魔道具編~」。いまや日常生活に欠かせない魔道具がどのようにして発展していったのかを図解付きで説明している貴重な本だ。ずっしりした重さの本を抱えて、目の前の男性に礼を言う。


「すみません、ありがとうございます」


彼はどういたしまして、と柔らかく笑んでいるが、先ほどまで気配どころか足音すら聞こえなかったんだけど……いつの間にこんな近くに来てたの?


ギルバート様の言いつけその3、知らない人に近づかない。

うん、このひとは知らない人だ。近寄らないでおこう。


「あ、待って待って。怪しい者じゃないよ」


余計に怪しいわ。その台詞は怪しい人が言うって決まってるんだけど。

フード付きの青いローブを纏った彼をじっと見ていると、彼は器用に眉を八の字に下げて苦笑い。


「う~ん、図書館に入れることが怪しくない、というか悪意を持っていない証明になるんだけど」

「……」


え、なにそれ。


「ここ王宮図書館は"悪意あるもの何人たりとも入ることを禁ずる"っていう魔法がかかってるから」


へぇ……それが本当なら凄いな。

何かあったらすぐにカウンターまで走ろう、そう思いながら司書さんの視界の範囲内までじりじりと後退する。


「失礼な態度を取ってしまいすみませんでした。…その、お名前をお伺いしても…?」

「あぁ、名乗るのが遅れたね。僕はクリストファー、魔導士団の副局長を務めているよ。よろしくね」


偉い人だった!!


「このローブ着てたら大体の人が魔導士団だって分かってくれるからついつい名乗り忘れちゃうんだよね~、こっちこそごめんね?」

「いえ……」


青いローブってもしかしなくても魔導士団のローブだったんですね……やばい、これ完全に私がやらかしてる。しかも副局長ってことは魔導士団のナンバーツーでしょ、知らない人を探す方が難しいんじゃない?

ここは王宮。そこに居る人ももちろんそれなりの立場だったり爵位だったりする場所で、この人を知らないってのは無いでしょ。しかも今の私は魔法騎士団カラーのフード付きマントを被っていてですね……新人なんで分かんなかったですって顔しとこ……。本当にすみません……。


2人そろって沈黙。

それを切り裂いたのは、図書館に似つかわしくない大音声。


「あーーーーーっ!!!!ここに居たやっと見つけた今までどこほっつき歩いてたんですか!!!!」


革靴をコツコツと鳴らして近づいてきたのは、副局長様と同じく青いローブを身に纏った青年だ。そばかすの散った顔はいかにも「怒っています!」というように歪んでいる。


「あはは、もう見つかっちゃった~~、僕を探す腕上がったんじゃない?」

「おかげさまで!あんたが毎日飽きもせず執務室を抜け出すお陰で!いらないスキルだけが伸びて行くんすよ!!!」


完全に2人の世界に入ってお話しするのはいいんですけど、ここ図書館……さっきから大声で話すせいで司書さんがこっちを見つめていてですね……。そばかす君が副局長様を連れて帰るのが先か、司書さんに怒られるのが先か、みたいな…。


「僕この子とお話してた途中だったんだけどな~」

「あ、いえ、私の事はお構いなく。副局長様もお仕事があるみたいですし…」


お話…してたか?私がやらかして気まずかっただけなんだけど。

それに2人の話を聞く限りどうやら副局長様は仕事を抜け出してここに居るみたいだし、ここはさっさと帰っていただくのがいいでしょう。ほら、そばかす君も首が取れそうなくらい縦に振っているし。


「この子もこう言っていることですし戻りますよ!」

「あーはいはい、分かったから引っ張らないで~……君、騒がせちゃってごめんね?」

「いつもの事ですので。それよりも早く戻られた方がよろしいかと。こちらまで局長様より連絡が届いています」

「えっ、あはは…さすがに今日は長居しすぎたかな……」


引きつった笑顔の副局長様は先ほどよりも幾分早足で扉まで向かう。上司には内緒で抜け出してたんですね。そりゃそうか。


「じゃあね、ツバキちゃん」


去り際にそう言ってウインクを飛ばしてきた副局長様は、そばかす君に引きずられて図書館を後にした。

短時間でキャラの濃い人たちに会ってしまって、言いようのない疲労感が身体を襲う。気を取り直して本の続きを読むことにしよう。



……あれ、私、名前教えたっけ?




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