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11:各方面への牽制

(アレックス視点)


「これより緊急会議を始める」


聖女召喚の儀が行われた深夜。

宰相、各騎士団長、宮廷魔導士長、大神官長。他、各大臣たちが集まるここは特別会議室だ。秘匿性の高い議題を扱う際に使われる部屋には、国の中枢を担う者たちが集まっている。

口火を切ったのは宰相殿だった。


「聖女エリナの様子を報告しなさい」

「はっ」


エリナ殿の護衛についた騎士から、王宮に連れられた彼女の様子が報告される。

グレイアム殿下自らが聖女召喚の儀についての説明を行い、彼女が聖女であると告げたところ「私だけが聖女であるとは言えないのではないか」「もう一人の召喚者にも同じ待遇を与えるべきではないか」などの意見が上がったという。その後、鑑定の水晶を使いエリナ殿の魔力について調べたところ、文献に残されていた聖女の力と同じ反応が見られたため、10代目聖女に確定された。本人は未だに納得していないみたいだが。

現在は夕食を摂り、既に眠りについているとのこと。


なるほど、しっかりしたお嬢さんじゃないか。

与えられた情報のみで判断せず自分の目で事実が確認できるまで迂闊に是と言わない姿勢に好感が持てる。ツバキと同じくらいの年だとして、14か15歳だろうか。思慮深い性格はツバキとおんなじだ。


一通り報告し終えた騎士が退室したのを確認して、宰相殿が促す。


「では金髪の少年について報告を」

「あぁ、まず最初に言っておく。もう一人の異世界人、名前はツバキ・ヤナギモト。あの子はギルバート・オルティスの”運命の恋人”だ」


宰相殿と宮廷魔導士長以外の面々が驚愕の声を漏らす。

今でもかなりの魔力を持っているギルバートに唯一無二が現れた。

聖女に加えて”運命の恋人”の出現。これほど目出度いことは無いだろう。

…そう、本来ならば目出度いことなのだ。


「次に、金髪の少年ではなく、黒髪黒目の女だった」


ぴしり、とその場の空気が固まったのが分かった。


召喚によって現れた二人の少女。一人は黒髪茶目、もう一人は黒髪黒目。どちらがより聖女の条件に当てはまるかと言われれば、後者だろう。些細な違いだがな。

まぁ、だが、鑑定の水晶によって間違いなくエリナ殿が聖女だと判定されたのだ。なら、ツバキが2人目の聖女だろうが違おうが、なにも問題はない。


──問題に、させるかっての。


「もし仮に、本当に聖女の資格を持っているのだとすれば彼女は…」

「分かってると思うが、魔法使いと”運命の恋人”を引き離そうなんて、考えるなよ?」


被せるようにして釘を刺せば、大臣のおっさんは口を噤んだ。

”運命の恋人”と引き離された魔法使いがどんな行動に出るか……想像に容易いだろう。

なにせ、俺が既に暴れまわってるからな!!!!

いや~~あの時思う存分暴れといて良かったわ、はっはっは。めちゃくちゃ怒られまくったけどな、はははっ。


と、まぁ、ひとしきり笑ったところで。


ここアルトレッド王国では、慣例通りであれば聖女の尊い血を王国に取り入れるため、その国の王族と婚姻を結ぶことになっている。まぁ、尊い血を取り入れるとか言っちゃいるが要はこの国に留めておくためだ。聖女はその国に居るだけで、災厄を弾くと言われている。

だからこそ、その国に縛り付けるため王族との婚姻を結ぶことになっている。

王族の伴侶なら他国のやつもそうそう手出しが出来なくなるしな。幸い今までは王族が美形だったこともあってすんなり婚約→結婚が出来たわけだ。古今東西、女の子は顔のいい男が好きなんだ。


しかしその聖女が、この国きっての魔法騎士の”運命の恋人”だったら?


ギルバートが、ツバキが他の奴に嫁ぐなんてこと許せるとは思えない。あいつは典型的な魔法騎士だ。そんなことになったら冗談ではなくこの国からツバキを攫って出ていってしまうだろう。

魔法使いの愛は深く重い。他の者にとられるぐらいなら祖国をあっさり捨てるほどには。

それにいくらグレイアム殿下の顔が良いって言ったって、この国から追い出されかけた元凶の所にツバキが嫁いでくれるとも思えない。こちらとしてはその方が好都合なんだがな。


とにかく、魔法騎士団(ウチ)としての要望はこれに尽きる。


「ツバキが望む限り、彼女の保護は魔法騎士団が請け負う。異論は認めない」

「………」

「魔力が安定していない状態のギルバートと”運命の恋人(ツバキ)”を引き離せば………正直言って俺でも抑えきれるか分からない。下手すれば国が吹っ飛ぶ」


”運命の恋人”と出会った後の魔法使いは、増えた膨大な魔力と許容量が合わずに、魔力コントロールが酷く不安定な状態になる。その不安定な状態を緩和させるのもまた”運命の恋人”だ。


傍に居るだけで魔法使いの精神は安らぐ。

逆に言えば、傍にいないと魔法使いの精神は乱れる。

精神の安定が魔法の安定に直結するこの世界で、”運命の恋人”と引き離されるのがどれ程危険か……冗談ではなく此処一帯が更地になるだろう。


魂が求める相手、それが”運命の恋人”だ。


「…彼ならば国を飛ばすのではなく凍りつかせるのではないかね?」

「ははっ、確かにそうかもな!更地じゃなくて永久凍土か!!」


宰相殿の呟きに笑って返せば、さっきとは違う大臣が血相を変えて叫んだ。おいおい、まだ何かあんのかよ。財務のおっさんを見習え、あの人ずっと聖女予算の再編成を大人しくやってるぞ。


「わ、笑い事じゃないですぞ!アレクサンダー魔法騎士団長殿!!」


いやどう考えても笑い事だろ。

好きな子取られて国凍らせるとか、子どもの癇癪でももうちょいましだぞ。

あー、もう、なんか面倒くさくなってきたな…どうせ大臣たちに何言われたってやること変わるわけでもあるまいし。

もう終わりにしていいだろ?な?


「こちらの条件は1つ、ツバキとその周りを見守ることだ。手出しは許さない」


威圧を込めてそう言えば、もう誰も口を開かなかった。


「手を出さないだけでこの国の平穏が手に入るんだ。そう悪い条件でもないだろう?」


俺の言葉を最後に宰相殿が上手く纏めてくれて、緊急会議は終了となった。











ところ変わって魔法騎士団演習場。夜勤の魔法騎士たちがのんびりしている時間帯だが、起きてる奴等には先に情報を伝えとかなきゃならん。

目についた騎士の一人に起きてる騎士達を集めるように言えば……おいおい、ほとんどの奴が起きてるじゃねぇか。さては寝ないで待ってたな?俺が緊急会議に行くのは当然知ってただろうし、その議題に上がる人物の事も知ってただろう。なんせ、あの、誰にも靡かないことで有名な『氷の騎士様』があんなに魔力を乱されるほどの存在に出会ったんだ。秒で噂が回っただろう。


「もう既に知ってる奴もいると思うが一応通達しとくなー。今日からうちで面倒見ることになった少年……改め少女だが、あの子ギルバートの”運命の恋人”だから。間違っても手ぇ出すんじゃねぇぞー」


魔法騎士が特別荒っぽいというわけではない。なんせほとんどの奴が貴族の出だからな。ただ、ギルバートの反応見たさに面白半分でちょっかいだすにはツバキは黒寄りのグレーゾーンだ。主にギルバートの精神的な問題で。


「ツバキへの対応は臨機応変に!間違ってもギルバートの逆鱗に触れるようなことは絶対にするなよ」

「団長!ギルバートの逆鱗が分かりません!!」

「俺も分からねぇ!!怒らせたら即座に謝っとけ!!!」


夜勤以外はとっとと寝ろ!そう言って騎士達を解散させて自分も宿舎に戻る。今日やる予定だった仕事は明日片付けるとして、ささっとシャワーを浴びて寝ることにする。

今日一日だけで疲労がドッと来た。これからもっと忙しくなるかもと思えば自然とため息が出てしまう。

は~~~……家に帰って癒されてぇ~~~……。




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