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10:亜麻色の髪を持つ者

(絵里奈視点)


目の前が眩く光りはじめて、あまりの眩しさに目を瞑っていたら、気付いた時には映画のセットみたいな場所に座り込んでいた。


同じく座り込んでいる子──私の親友、柳本椿やなぎもとつばきちゃんがきょろきょろ辺りを見回している。あ、目が合った。ここは一体どこなのか、周りの人は誰なのか、演劇サークルの人達はどうしているのか。そう言った話をしようと椿ちゃんに声を掛ける寸前。知らないおじいさんが目の前にやってきて意味の分からないことを喋り出す。


「まさに伝承通りのお姿……。黒目…ではないようだが、うむ、過去には茶色の瞳を持った者もいたようだしな。間違いない!この方こそ、我らが国を救う聖女様だ!!!」

「えっ………?」


本当にいきなり何を言い出すんだろうこの人。ドッキリにしては手が込んでいる。込み過ぎている。


「突然の事で驚くのも無理はない。私はこの国の第一王子、グレイアム・ディ・アルトレッド。君の名前は?」

「あ、私は、川口絵里奈です……」

「カワグチ、エリナ……エリナ、がファーストネームでよかっただろうか」

「!っはい、そうです」

「うん、今代の聖女は名前の響きも美しいんだね」


咄嗟に名前を答えてしまってから、知らない人なのに本名教えちゃった…と後悔した。


そして、やっぱりと言うべきか。この人達は日本人ではない。姓と名が私達と逆になることからもそれは正しいのだと思う。なによりこの人の鮮やかな緑色の瞳はなかなかお目にかかれるようなものでもないだろう。その色はまるで2次元のキャラクターをそのまま3次元に飛び出させたみたいな鮮明さだ。かと言ってカラコンみたいな不自然さはなく、この人のリアルの虹彩の色なんだとぼんやりと眺めた。


目の前の彼が冷たい声色で椿ちゃんを糾弾するのも、まだどこか夢見心地のように感じて。

王子様に手を取られて歩き始めて、漸くこれが夢でも何でもない現実に起こっている事なのだと理解した時には、背の高い見知らぬ人たちに囲まれて椿ちゃんと離されてしまっていた。


「椿ちゃん…!」


思わず声を掛けると、彼女はいつものちょっと歪な笑顔をする。それがいつも通り過ぎて、彼女が私を安心させるためにした笑顔だって分かっちゃって、何も言えないまま豪華な意匠の廊下を奥へ奥へと進んでいった。











廊下を進む道すがら、第一王子のグレイアム殿下がやたらめったら話しかけてきて、それを不敬にならない程度に聞き流していく。いや聞き流している時点で不敬かな。

先程、椿ちゃんを”部外者”と呼び追放しようとした時点で私の中での心証は底辺に落ちた。

しかし、それを見ているからこそ自分が次は追放されてしまうのではないかと考えてしまい、何が何でも生き延びなければ、という気持ちがむくむくと湧き上がってくる。

椿ちゃんのことはもちろん心配だが、今は自分の身の安全が第一だ。

それに………。


(あの赤い髪の毛の人、いい人っぽいから多分大丈夫)


燃えるような真っ赤な髪色の男性は、あの場で唯一椿ちゃんに手を差し伸べてくれた人だ。

後ろに居た銀髪の男性も、視線に椿ちゃんを気遣うような色が滲んでいたように見えたし、きっと大丈夫。そう思えた。






連れてこられた客室は意外にも落ち着いた雰囲気の部屋だった。暖色系でまとめられた内装は、若い女性が好みそうなルームフレグランスが使われているようで、胸いっぱいに吸い込むとそれだけで強張った体から余計な力が抜けていった。


この国の第一王子、グレイアム殿下曰く。

聖女とはこの国になくてはならない存在で、神託により定められた日時に「聖女召喚の儀」と呼ばれる儀式で現れる女性の事を言うらしい。


そして聖女とは、聖なる力をその身に宿した黒髪黒目の乙女(・・・・・・・)らしい。


「…………」


私、黒髪じゃないんだけど。ついでに言うと乙女ですらないかもしれない。

ここでいう乙女がただ「女の子」を意味するのなら、まぁ、分かる。だけどもし、「乙女」がいわゆる男性経験のない女性の事を指す言葉だとすれば、残念ながら私は当てはまらない。私はもう20歳の誕生日を迎えた成人女性なのだ。経験があってもなんらおかしくはない。


それに白雪姫を演じるために黒に見えるよう染めた髪の毛は、もともとは茶色だ。それもかなり明るい、というか色素の薄い茶色。

あの子のおかげで好きになれた、亜麻色の髪。

というか厳密に言えば黒ではなく、濃い目のネイビーなんだけどね。しかもヘアカラーじゃなくてマニキュアの方。光の当たり具合で黒に見えなくもないが、黒染めしたわけじゃない。

これまで染めたことなんてなかったから、どのくらいで色が落ちるのかは分かんないけど、2~3週間もすれば多分もとの色に戻ってくれる……はず。

で、瞳の色も髪の毛と同じくちょっと色素は薄め。間違っても黒目には見えない。


「聖なる力に関してはよく分かりませんが、私の地毛は黒色ではありませんし黒目でもありません。もう一人の子が聖女なのではないでしょうか」

「だが、先ほどの者は男だよな?」

「いいえ、正真正銘れっきとした女の子です」


いくら男装していたとはいえ、男性と見間違うには椿ちゃんは華奢だと思うんだけど。細身の男の子とでも思われてるんだろうか。

などとつらつら考え込んでいるうちに、殿下の護衛騎士(そう紹介された)の人が占い師とかが使っていそうな大きな水晶を運び入れていた。


「これに手をかざし”聖なる力”と唱えてみてくれ」

「……『聖なる力』」


テーブルの上に鎮座している水晶を睨み付けやけくそで唱えてみる。

どうせなにも起こらないでしょ。そう、思っていたのに。


水晶は光った。光はスマホのライトくらいの明るさで辺りを照らした。

私、黒髪じゃないのに。乙女でもないかもしれないのに。なんで光るの………?

本当に、私が聖女だって言うの……?でも、だって、あの時確かに………。


「こちらに来た時点で黒髪なら、それで良いのかもしれないな」


弾んだ声でそう言う第一王子にイラっとする。


判定ガバすぎるんじゃないの?この世界。

私が聖女?ないない!ありえない!

聖女ってもっと清らかな心を持ってる人の事を言うでしょ!!全然そんなキャラじゃないから!!!


「わ、私は納得していません。それに、もう一人の子が聖女ではないと決まったわけではないでしょう?」


まだ食い下がるのか、そう言いたげな雰囲気を殿下の後ろに控えている護衛騎士から発せられるが、そんなの知ったこっちゃない。


「だが聖女が同時期に2人いたことなど今まで一度もない」

「ですが現に今、聖女召喚の儀で2人召喚されました。ならば、2人とも聖女だという可能性も捨てきれないのではないでしょうか」


一考に値すると思ってくれたのか、ただの戯言だと流されてしまったのかは分からないがこの場でのお話はそれで終わってしまった。

疲れているだろうから、という配慮で夕食は部屋に運び込んでもらい、美味しいご飯を食べてお風呂に入って着替えて、睡魔に逆らわずに眠った。布団も高級ホテルのやつみたいにふっかふかだった。


(私の大事な友達を簡単に切り捨てようとしたこと、私は許してないんだからね)


寝る直前までそんな事を考えながら眠ったせいなのか、その日の夢はグレイアム殿下がスライディング土下座をしている傍で高笑いをしている私、というものだった。




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