第42話 そしてそれから
長の居た空間は、長の消滅と共に消え、トイス達は元の場所に戻ってきた。
ずっと心配をして、その空域を監視していたクシュカ達飛竜に乗せてもらって王都に戻ることにした。
全員が傷だらけで、魔力も尽き、もう一歩も歩けそうに無かった。
特にダグリュールの怪我は酷く、一刻も早く手当が必要だ。
飛竜が着くと、真っ先に飛び出してきたのはフロアティーナだった。彼女はダグリュールの状態を見て、直ぐに治療を施したが、傷が酷すぎて、魔力を注ぎ込んでも傷を塞ぎきることが出来なかった。
「無理するな。そこまで塞いで貰うだけでいい。」
「でも、このままでは。」
「俺も長く生きたからな。もういいんだ。このままそっとしておいてくれ。」
「はい。」
他のものを王都に運び込む指示を出し、フロアティーナはその場を離れた。
ダグリュールの傍には、ザイド一人が残った。
「ダグリュール、感謝する。孫を生きて連れ帰ってくれた。」
「ああ。」
「お前はもう未練は無いのか?」
「妻も息子も・・・もう、いないからな。」
「惚れっぽいお前の事だ。また好きな女ができる。元気になってまた女を口説きに行けよ。」
「もう、いいよ。」
「ダグリュール。」
小さい足音が遠慮がちに近づいてきた。ザイドが振り返ってみれば、少女がおずおずと薬草を差し出してきた。
「これは?」
「あ、あの、魔神様に・・・。」
消え入りそうな声で答え、そっとダグリュールの傷に薬草を載せる。緊張と魔神への恐れから体が震えている。それでも丁寧に薬草を貼り付け、そっと後ずさった。
「ありがとう。名前は?」
少女は名前を聞かれるとは思っていなかったので、目を丸くしたが、ダグリュールの声が思った以上に優しくて、安心したのか、小さい声で答えた。
「マリアです。」
「そうか。また薬草を持って来てくれるか?」
「は、はい。後で、薬湯も持ってきます。」
「頼む。」
「はい。」
少女は頭を下げて、王都の方に小走りに戻って行った。
「やっぱり、長生きすることにした。」
「お前は・・・。」
ダグリュールはザイドをニヤリと見上げ、少女の後ろ姿を見送った。気力の復活は身体の賦活にも効果があるようだ。
ザイドも楽しそうにダグリュールを見返した。
トイス達が回復し、動けるようになると、王都では祝いの祭りが執り行われた。
人も魔神も大いに飲み、大いに食べ、そして、笑いあった。
クシュカも人型になり、ロルカとダンスを楽しんだ。
誰もが笑っていた。
イヴァンとアマーリエは祭りの中、結婚式をした。大騒ぎの中、更に騒ぎが大きくなる。
イヴァンはみんなに祝われ、みんなに殴られた。
マリオンは嫌になったら直ぐに戻っておいでと言いながら、アマーリエを祝福した。
イヴァンの兄のランセルは、弟に先を越されたと苦笑いし、婚約者のライラに、ついでに自分達も式をあげちゃう?と言われ、早速翌日式をあげることにしたらしい。
祭りは数日続き、王都はいつもの様子を取り戻した。
各国からこの時ばかりは許可無く集まって来ていた人々も、それぞれに各々移動して行った。元の国に戻る者も、この機会に別の国に移動するものも。
グランとマリオンがそれぞれの国に帰る事になった日、グランもライラからマリオンが貰ったものと同じ携帯型転送陣を贈られ、破顔した。
「イヴァン、俺はまだお前を次代にするのを諦めていないからな。時々説得に来る。覚悟しておけよ!」
ライラはグランとマリオンの転送陣を改良し、イヴァンの居る場所を座標とする事に成功したらしい。
なんでだ?とイヴァンは思ったが、グランとマリオンは満足そうだ。
ダグリュールは、とある少女の家に住み着き、何やら甲斐甲斐しく少女に尽くして居るらしい。
そして、今日、トイス達は旅に出る。
もう一人弟子を連れて。いや、伴侶を連れて。
トイスはフロアティーナと結婚した。お互いに諦めていた思いだった。
水の離宮は忠犬のランが、優しい世話係の少女と共に守ってくれる事になり、今では水の四聖の滞在を必要としなくなっていた。トイスからバカ犬呼ばわりされる事もなくなり、ランドルーは満足した生活を送っている。最近ではいつ人型に戻ろうか悩んで居るらしい。
クシュカは最近では殆ど人型になっている。すっかり大人の女性になったクシュカが、ロルカには少し眩しい。クシュカはそんなロルカに時々意味ありげな眼差しを送り、ロルカが顔を赤らめるのを楽しんでいる。
「さて、何処に行こうか。ティーナ、行ってみたい所はあるか?」
「何処でも。」
まだ、行ったことのない所は多い。いつかはこの大陸から離れ、まだ見ぬ土地に向かうのも楽しいと思う。
この仲間となら何処までも行けるだろう。
トイスは新しい旅の一歩を踏み出した。
お読み頂きありがとうございました。
誤字脱字方向も、とっても感謝しています。ありがとうございます。




