第41話 決着
魔神の長は怒り狂っていた。
【器】が自分に刃向かって戦いを挑んでくる事に。
ダグリュール達が魔神の癖に、人間に手を貸すことに。
己の部下達がそれらに次々と倒されていくことに。
【器】が魔神を容易く倒せる武器を持っている事に。
「忌々しい。あれはザイドが作ったものに違いない。それを人間の武器とするなど。天才鍛冶師と思えばこそ重用してきたのに裏切りおって!」
この使い古された体のせいで、魔力の流れも悪く、体の動きも悪い事が尚いらいらする。
部下に当たり、すっきりしたいが、今は一人でも戦力を減らせない。だから諦めてたった一人しか殺せなかった。
長く生きてきて、これ程苛立った事は無かった。
ダグリュールは強いが、自分の敵ではない。それはわかっている。それよりも【器】の強さが意外だった。
確かにあの武器があるメリットは大きいが、それ以上に魔力の高さ、剣技の鋭さが予想以上だった。
あの体に入れば、自分がどれ程偉大なものになるか。
それが中々自分の手に入らない苛立ち。
あれが手に入ったらこの大陸の半分は破壊しようと決めた。
苛立つ心を抑えながら少し休んだ後、目覚めた長は何が起こったのか分からなかった。
どう言う事だ?
どうして誰もいない?
部下はどこへ行ったのか?
遠見で人間達を見れば、昨日まで自分に媚びへつらっていた魔神がダグリュールの元に跪いている。
ありえない。
なぜた?
どうして自分は一人になっているのだ・・・。
一方、ダグリュールは皮肉な笑みを浮かべていた。
あいつは愚かだ。魔神だと言ってもやはり、死ぬ事を恐れない訳では無い。
それなのに、仲間を半分も殺されて不安に揺れる部下の前で、愚かなあいつは自分の手で部下を殺した。
それもただの八つ当たりで。
ダグリュールの元に集まった、かつての長の部下達は、自分達を駒としか見ない愚かな長を見限った。
魔神は強いものに本能的に惹かれる所がある。そして、彼らは現在の長よりもロルカにその力を見たのだ。
本当にあいつは愚かだ。それでも随分昔には長とダグリュールは友人と言ってもよい仲だった。
いつから自分達は違う方向を見るようになったのか。
あいつにけじめをつけるのは自分の務めなのだろうと、ダグリュールは思った。
さあ、決着をつけよう。
あっけない魔神の降参にトイス達は目を見張った。
そして、残る長を倒すのは、四人の四聖とダグリュール、イヴァン、アマーリエに託された。ダグリュールから魔神の魂を閉じ込める為の魔法を教えられた、ロルカ以外のメンバーはその魔法と、治癒決壊が彼らの役割だ。
長への直接攻撃はロルカ、ダグリュールが受け持つ。
鍛冶師のザイドはダグリュールに特別な剣を託した。
ザイドはいつか長を倒す日が来ると信じていたのかもしれない。彼の力では太刀打ち出来ないが、せめてという気持ちだったのであろう。
ダグリュールについて、彼らは長の住む空間へと踏み込んだ。
その空間はゴツゴツした岩でできた床や壁があるように見えて、次の瞬間には水の中に居るようにも感じられた。
「しっかりしろよ!目で見るものは幻だ。騙されずに、自分の感覚を信じろ!」
目を瞑り、感覚だけを研ぎ済ませれば、恐ろしく広く感じた空間も、実はそれ程ではなく感じる。
そして、向かい合う大きく、強い存在には怯えさえ抱いてしまう。
トイス達はダグリュールに教えられた通り、魔法を展開した。
「ダグリュール、何故人間等に手を貸すのだ。お前は誇り高い魔神では無いのか!」
「そうだなぁ、お前が俺の息子を殺したりしなけりゃ、俺は今でもお前のやることに目を瞑っていただろうな。」
「息子だと?だいたい、魔神に親も子もなかろう?お前の息子とやらは弱かったのだ。弱いものは倒される。当たり前の事ではないか。」
「お前にゃ、親子の絆なんて分からないだろうな。教えても理解できないだろう。もう一度、魔の一雫からやり直せ!お前のその体も魂も砕いてやるよ!!」
「やれるものならな。お前は俺より弱い。」
「そうかもな。しかし、こちらは七人、お前は一人。それにその体、使いこなせていないだろう?こっちの方が有利だ。」
急に空間の空気がズシッと重くなった。最初にアマーリエが、続いてマリオン、グラン、トイスが膝をつく。
イヴァンは唸り声をあげながら、崩れそうな体を支え、剣を構えた。
「やってくれるな。ロルカ、行けるな?」
「はい。」
ロルカはグッと膝に力を入れて駆け出した。ナイフは既に手の中で剣に姿を変えている。
アルマンに教えられた剣の技を。鋭く、突き出し、長の伸ばす手を払う。素早く立ち位置を変えながら、長から発せられる魔法すら剣で切り捨てる。
隣ではダグリュールも必死にきり結んでいた。
それでも、中々長には近づく事が出来ない。
その間にもいよいよ空気は重く、彼らを押し潰さんがごとく、圧迫を与えてくる。
トイスは崩れそうになりながらも、体を支える。
二人にしか注意の向いていない長に風の刃を飛ばす。ダメージを期待したのではない。一瞬の隙、それさえ与えられれば。
長はその誘いに乗った。屑の如き人間に与えられた攻撃に怒りを覚え、罰を与えようと、トイスに向かって魔法を放とうと、二人から僅かに目を離した。
イヴァンとグランは地面に伏せたままトイスの前に土壁を立て、アマーリエとマリオンは炎の壁を立てる。
ダグリュールは体を叩きつけるように長にぶつかりながら剣を突き出した。
長は直ぐにダグリュールに向き直って反撃の体制をとったので、放たれた中途半端な魔法は彼らの壁に阻まれ、トイス達には届かない。
そして、ダグリュールの腹に勢い良く右腕をめり込ませた。
右腕を抜こうとして気がついた。ダグリュールが両手で己の右腕を掴んでいることに。
「くそっ!離せ!!」
焦って身をよじった瞬間、胸に冷たい感触があり、何かに魂が体から引きずり出される。必死に抗うが、それでも魂が喰らわれていく。
なんなんだ、この感覚は!自分の魂を喰らおうとしているものは何だ?
慌てて魂を自らこの体から剥がして、逃げようとするが、何故か魂を剥がす事が出来ない。
自分の胸に刺さるこの剣か?こんなものに自分は・・・。
長の魂が全て剣に吸い込まれ、剣の中で消えていく。ダグリュールに埋められた右腕ごと、サラサラと灰のように長が消えていった。




