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風の薬師  作者: ダイフク
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第40話 想い


魔神が引いた後、まだ動く事ができる者達は、亡くなった人々を弔い、その死を悼んだ。


戦の前、イヴァンを囲んで彼をからかった男の中にも亡くなった者が居た。歴戦の猛者でさえ、その死を免れる事が出来なかった。その事が人々に重い現実を突きつける。

そして、彼らの死を無駄にはしないという強い想いも。


王都の人々は恐怖に震えながらも、自分達を守り、全力で戦う彼らに、食事と薬を差し入れ、門の外の状況を見ると体を震わせて王都に駆け戻ってゆく。

それでも、酷い傷を負ってこれ以上戦えない人々を、託され、王都に連れ戻る為の戸板を持って来てくれた。


「ふぅ。さすがにきついな。」


トイスにもいつもの余裕の表情は無く、岩に持たれて体を休めていた。

フロアティーナは大勢の中からその姿を探し出し、彼の元に走りよって来た。


「トイス!」

「ティーナ。無事か?」

「私は王都に居たから。トイス、動かないで、今傷を治すから。」

「大丈夫だ。見た目程の怪我ではないよ。」

「喋らないで。」

「・・・ありがとう。」


フロアティーナの手から魔力が流れ、トイスの全身を覆う。傷だけではなく、体の汚れも雪がれて、トイスは大きく息をついた。


「すっきりした。ティーナありがとう。魔力を使い過ぎると王都の結界が守れなくなるが、もし余裕があれば、他の者達も癒してやって欲しい。」

「大丈夫。さっき、イヴァン達も癒して来たわ。安心して。あなたの弟子はみんな強いわ。三人とも無事よ。」

「私の弟子は二人だけだ。アマーリエは違うよ。」

「ふふっ。でも彼女はあなたの弟子のつもりみたいよ。私も。」

「ティーナ。」

「ねぇトイス。私もアマーリエと一緒。今はただの一級薬師、この戦いが終わったらあなたの弟子に戻って、もう一度、一緒に旅に行きたい。」

「ティーナ。」

「約束して。また旅に行くって。」

「そうだね。約束しよう。」


フロアティーナはそっとトイスの体を抱きしめて、離れていった。

彼女が四聖になった時に封じた想いが、また戻ってくるんだなと、トイスは感じた。必ず魔神達を倒さなければ。


ロルカはダグリュールと生き残った魔神の世話をしていた。

彼らは広い洞窟の中で休んでいた。彼らは死ねばその体さえ残らない。弔いたくても弔う物がない。

ダグリュールは弔いの詞を紡ぎ、その死を悼んだ。

ロルカはその姿を見ながら、少し不思議に思っていた事を聞いてみたくなった。


「ダグリュールさん。」

「おじいちゃんって呼んでよ。」

いや、呼べないだろうと、口を噤むと、ダグリュールは残念そうに肩を竦めた。


「まあ、今はいい。その内呼んでくれ。」

「難しい気がします。すみません。」

「それで、何?」

「ダグリュールさん達はどうして人間に手を貸して下さったんですか?」

「そうだなぁ。元々、気に入らなかったって言うのもあるかもな。俺なんかは人間との恋愛が好きだし、そう言う奴も少なくないんだ。それをおもちゃのように嬲って殺されるのは、正直胸糞が悪い。」

「でも、今回、大勢の方も亡くなりました。」

「そうだなぁ。ま、それも仕方ないかな。中には長すぎる生に疲れている奴もいるんだ。人の攻撃は首を斬らなければ致命傷にならないが、魔神の攻撃はそれ以外でも致命傷になる。それでも中々しぶとくて、死ににくい。」


二人の間に静かな沈黙が流れた。


「俺も長すぎる命を生きるんでしょうか。」

「そうだな。四聖になった時点で体の老化がある程度止まるんだろう?」

「そう聞きました。」

「じゃあ、長いだろうな。怖いか?」

「そうですね。少し。」

「そうか。」

「自分は人間だと思っていたのに、そうでは無いと言われているようで。」

「それでも、お前は大切にされてきただろう?俺の息子は最初からお前を人間では無いと知ってた筈だ。それでもお前は人として育てられたんじゃないのか?」

「・・・。」

「息子の気持ちを汲んでやれよ。」

「はい。」


「ちょっといいかな?」


現れたのは厳つい顔をした大柄な魔神だった。体も大きいが、その手もゴツゴツして大きい。


「ザイド。」

「俺は、ザイド、魔神の鍛冶師だ。」

「鍛冶師。もしかして、このナイフ。」

「そうだ。それは俺が百年かけて作った渾身の作だ。」

「どうしてそれを俺が?」

「お前の乳母だったのは俺の娘だ。俺は娘に請われてそれを作った。」

「・・・。」

「娘はそれで、あのクソ野郎を自分の手で殺してやると言っていた。叶わなかったけどな。それでもお前を逃がすことはできた。満足しているだろう。俺はお前の祖父さんだ。じいじと呼んでくれ。」

にやりと笑う顔は、意外に愛嬌がある。


「ロルカ、そのナイフには娘のお前を愛しむ気持ちも籠ってる。お前は俺の孫だ。」

「ザイドさん。」

「死ぬなよ。」

「はい。」


その二人をダグリュールが微笑みながら見つめていた。


明日、全てに決着がつく。それぞれがその後の生活を思い、その為にも死ねないと決意を新たにする。

決して負けないと。

それは人間の未来を守ることでもあった。


残り二話です。纏めて投稿します。

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