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風の薬師  作者: ダイフク
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第4話 拾った少女


その町に着くのが遅れたのには理由がある。


トイス達は夕方にはその町に着いて、噂の麺料理を食べるつもりだった。

それを邪魔したのは他でもない、いかにも頭の悪そうな山賊だった。


「ロルカ、私は先に行くから、お前は片付けてから来るように。」

「届出は必要ありませんか?」

「必要無いけど、財布は貰ってね。」

「はい。お師匠様。」


トイスからは盗っ人の上前をはねろとの指示なので、それは忘れてはならない。

ざっと数えて20人。確かにいい路銀稼ぎになる。


トイス達は魔法の鞄を持っているので、財布をそのまま懐に持っていることは無い。これは四聖の特別な所持品で、持ち主か又は持ち主に許されたものしか開けることもできず、なくしても勝手に持ち主に戻ってくる、大層便利な鞄なのだ。


だから師匠の指示に従うのはとても簡単で、戦いながらでもできる。まぁ、倒してからの方が時間もかからないのだが。


トイスは指示だけ与えるとさっさと歩き出そうとするので、ロルカはトイスの前に立ち、まずは師匠の道を空けることにした。


軽く地面を蹴って前に飛び出すと、その勢いのまま、開いた掌底を正面の盗賊の胸に叩き込み、蹴りあげた足でその後方3人を蹴り飛ばし、盗賊に向かって2歩右手に進む。

それだけで盗賊達は自ずと道の半分に固まった。


「どうぞ、お師匠様。」


とても盗賊に襲われているとは思えないような優雅な足取りでトイスが離れて行くのだが、盗賊達はロルカが怖くて動けない。そう、怖すぎて動けないのだ。

どう見ても若造なのに、全く隙が無い。武術の心得が無くても逃げ出せないのがわかる程、怖い。


「お、俺達を、どうするつもりなんだよぉ。」


襲っている方が言う台詞では無いと思う。ロルカがゆっくり腰から剣を抜くと、もう盗賊達の顔色は無い。


「全員懐から金を出して、こちらに投げろ。」


もう完全に立場が逆である。


「ひぃーっ」


全員が財布を出し、さっき倒した4人からも財布を取り出すと、ロルカは剣をしまい、道の端により、低い声で命じた。


「去れ!」


盗賊達は倒れた4人を担いで、大慌てで逃げて行く。


とても生真面目だったロルカだが、すっかりこの生活に馴染んでしまった。

――いかんいかん、これでは俺が追い剥ぎみたいじゃないか。はぁ、反省しなくては。


それでも手に入れた財布を整理して、纏めたお金を鞄にしまうと、師匠を追って走り出そうとした。

ふと、視界の端に動くものが入り、立ち止まると、気の根元に蹲って震えるものに気がついた。

そっと近づいて見ると、まだ幼い。10歳ぐらいの少女だった。


「どうした?」

「ひっ、殺さないで、助けて!」

「盗賊の仲間か?」

ロルカは少女と目線を合わせようと、彼女の正面にしゃがみ込んだ。少女は余程怖かったのだろう、頭を抱えるように小さくなって泣き出した。


「あーぁ、女の子泣かせて、何やってるの。」

「お師匠様。」

「全く、中々来ないと思ったら・・・。ダメでしょう!女性には優しくと教えたよね!」


トイスはそっと少女の頭を撫ぜながら、優しい笑顔を浮かべる。

「大丈夫。あなたに何もしないから、どうか安心して。何も怖くないよ。ね。」

少女は泣きじゃくりながらも、おずおずと顔をあげた。トイスの顔を見上げると、ほわっと緊張が緩む。

「天使、様・・・?」

――絶対違う。師匠より、俺の方が優しい。笑顔に騙されるな!


「ふふ。違うよ。私はこの男の薬師の師匠だよ。怪我は無い?」

「うん。怪我はしてない。」

「さっきの彼らとは知り合い?」

「ううん。」

「どうして一緒に居たの?」

「分からない。朝起きたら、一緒に居たの。」

「そう。お父さん、お母さんは一緒じゃないの?」

「私、エペの町に住んでたの。お父さんに会いたい、お母さんに会いたい!」


少女はまた泣きじゃくり始めたので、トイスが慰め、ロルカが背負ってエペの町に連れて行くことになった。

少女はエペの町に住むゲイル・ハートの娘のエマだと名乗った。


町が見えてくるとエマは急に下ろして欲しいと言い出したので、ロルカはゆっくり彼女を地面に下ろしてあげた。

――おんぶされてるのを見られるのが恥ずかしいのかな。


エマは下ろされると、全速力で町に走っていった。


トイスはそれを見ると踵を帰し、予定の街に向かおうとした。ロルカは慌てて師匠の腕を掴んだ。

「お師匠様、あの子がちゃんと家に着いたか見届けなくていいんですか?」

「え?なんで見届けるんだよ。」

「だって、あの子の両親はとても心配してたと思うんです。どうして攫われたかわかりませんが、両親に同じ事が起きないように注意してあげた方がいいと思います。」

「はぁ?お前、何言って・・・」


ロルカはトイスの腕を掴んで、行きましょう、行きましょうと言いながら、エペの町に入っていった。


少女はどこに行ったのか、もう姿がない。仕方がないので道行く人に聞いてみる事にした。


「すみません、少々お伺いします。ゲイル・ハートさんのお宅はどちらですか?」

ロルカが話しかけた相手は気の毒そうな顔で彼を見た。

「あんた達、ゲイルさんの知り合いかい?」

「いえ、特に知り合いと言うわけではないのですが。」

「あの一家は隣村に商売に行った時に野盗に襲われて、全員殺されてしまったよ。」

「殺された?いつです?小さい娘さんもいましたよね!」

「あぁ、上の娘のエマちゃんの事だな?可哀想にね、あの子も一緒に殺されたんだよ。可愛い子だったのになぁ。もう八年も前の事だよ。」


――殺された?じゃあ、俺が背負ってこの町に連れてきた子は彼女の霊だったのか?あの子は八年もあそこに居たのか?なんて不憫な・・・。


ロルカは教えてくれた人に丁寧に頭を下げて町の中央にある教会に向かった。


「おい、お前、何をするつもりなんだ?もういいだろう?麺料理を食べに行こう。」

「お師匠様、俺は可哀想なエマのために、教会に少しだけでも寄進して、あの子の冥福を祈りたいです。」

「お前なぁ。」

「すみません。お願いします。」

「勝手にしなさい。」


トイスは渋々だが諦めてロルカに付き合って教会について行った。教会に着くとロルカはさっきの盗賊から取り上げたお金を握りしめ、シスターに寄進を申し出た。

トイスはちょっと目を見張ったが、結局は何も言わなかった。


ロルカが祈りをさ下げて教会を出ると、トイスは既に教会の外にいて、シスターのスカートの影に半分隠れた少女と話をしていた。


「お師匠様、お待たせ・・・」


ロルカは言葉を失って少女を見た。その少女はついさっきまで彼が背負っていた、亡くなった少女にそっくりだったから。


「さあ、行くよ。」

「お師匠様、え、あの子、どうして?」


師匠は楽しそうに少女に手を振り、少女も彼に手を振った。しかし、驚くロルカと目が合うと、少女はいたずらっぽく笑ってあっかんべーをしたのだ!

ロルカが更に目を丸くするのを楽しそうに見つめ、くすくす笑うと丁寧に頭を下げて手を振った。


ロルカもつられて手を振ったが、頭がついて行かない。


「お前は私と居て一年半にもなるのに、相変わらずだなあ。10歳の女の子以下とはね。全く。」

「お師匠様?」

「まだ分からないようだから、道道教えてやるよ。さっさと予定の街に向かうぞ。」

「は、はい。」


トイスは次の街に向かいながらロルカに話した。

少女はおそらく亡くなったエマの妹だろう。気の強いあの少女は盗賊に捕まったのではなく、こっそり彼らをつけて町の役人に届けようとしたのだろう。両親と姉の仇として。


「いつからわかってたんですか?」

「だいたい、なんであの子が霊だと思ったんだ?お前はあの子を背負っていただろう?あの子は温かくはなかったか?」

「あ、そう言われれば。」

「死んだ人間は温かくないだろう。」

「す、すみません。」

「それにあの子はとても上手に隠れていただろう?盗賊達もあの子には気づいていなかった。私たちがあの盗賊に出会った時からずっとあそこに居たのにだ。」


そう言われれば、確かに。こちらに向かってくるのではない気配がひとつあった。向かってこなかったから気にもしなかったのだが、そうか、あれが、あの少女だったのかと、ロルカは納得した。


「全く、お前は勝手に勘違いして、せっかく手に入れた金も全部教会に寄進してしまうから。今夜の支払いはお前だからな。」

「はい。お師匠様。でもなんで妹って。」

「お前が聞いた人が言ってただろう?エマが上の娘だったって。それにいくら気が強いと言ってもまだ10歳の女の子だ。盗賊はとても怖かったろう。それでも盗賊に仕返しをしたいと思う何かがなければ、あんな行動は取れないんじゃないか?」

「・・・そうですね。勇気のある子です。」


――あの子は盗賊が怯えて逃げるのを見て、どう思ったかな。捕まえて届けてやれば良かった。


「そんな心配そうな顔をするな。大丈夫、あの子も今回とても怖い思いをしたから、もうやらないと言っていた。」

「あ、あの子と話をして?」

「あの子はリーラと言うそうだ。シスターがお前が両親の為に寄進をしてくれた事をあの子に教えていた。嬉しそうだったよ。」

「・・・・・・」

ロルカは涙が出そうになった。


「ほらほら、立ち止まらずに行くぞ。このままじゃ、日が暮れてしまう。」

「はい、お師匠様。」


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