第39話 決戦
ハロルド王国の城壁の周りには、ダグリュール率いる魔神と、トイス達、四聖が間もなく押し寄せるだろう魔神達に備え、準備に余念が無い。
過去、武術大会上位者はもちろん顔を揃えており、彼らとイヴァンは顔見知りだ。
彼らは戦いを前にしながら、久々の顔合わせに豪胆にも大声で笑いながら挨拶を交わしている。
イヴァンに話しかけてくる猛者たちの言葉には遠慮がない。
「イヴァン、お前があの優勝者を追いかけてるって噂を聞いたんだが、会えたのか?」
「おお、俺も噂を聞いたぞ。追っかけ回して、何でも薬師を目指すことになったとか。」
「はあ?イヴァンが薬師?この脳みそまで筋肉が詰まっている奴に薬師様なんかできるのか?」
「無理だろう。こいつは筋肉バカだろう?」
数人に囲まれて言われ放題のイヴァンだが、彼は元々人好きのする男なので、猛者友達が多い。
「なんだ、お前達、噂が遅いな。俺は今では四級薬師。薬師見習いじゃなくて、立派な薬師様だ。馬鹿にするなよ。」
「四級?嘘だろ?そんなに早く薬師ってなれるものなのか?」
「師匠が厳しいんだ。怪我治療の訓練の時は俺でも涙目になった。」
「お前が?」
「嘘だろ。」
「いや、本当に。結構死にそうになった時もあったし。薬師修行は想像とはとんでもなく違ったな。」
「俺の知り合いに薬師見習いが居るが、そんな話は聞かないがなぁ。」
「まあ、師匠によるんじゃないか?それにな。」
「なんだよ。勿体つけんな。」
「いいからいいから、今紹介するよ。おーい。アマーリエ。」
悠然とアマーリエがやってくる。今日は薄い鎧を身につけているが、元々は拳術使い、動きやすい服を着ているので、抜群の身体のラインが目に悩ましい。
真っ赤な髪は戦いに向けて短く切られているので、まるで炎のようだ。
「へへ、俺の愛しい女。アマーリエだ。もうすぐ結婚する事になってる。」
「あら、イヴァンのお仲間?よろしく、アマーリエです。」
「・・・・・・。」
イヴァンを囲んだ男達は一様に無言だ。その割に顔は皆怖くなっている。
どこでこんな美人を引っ掛けたんだ。
お前一人狡いだろう。
ふざけんじゃないぞ。 等など。
イヴァンは満足そうにアマーリエの腰を抱いて、口付けを交わす。アマーリエも、イヴァンの首に腕を回し、情熱的に応えた。
「じゃあ、イヴァン、私は少しマリオンと打ち合わせしてくるわ。終わったらここに戻ってくるから、待っててね。」
「もちろんだ。今日の戦いでは俺はお前から離れない。絶対に守ってやるからな。」
「ええ、わかってるわ。私もあなたを必ず守るから。」
周りを囲んで居る男達がアマーリエがいなくなった途端、全員でイヴァンを殴ったのは仕方がない事だった。
「で、あの優勝者はどこにいるんだ?」
イヴァンが前方でダグリュール、トイスと打ち合わせをしているロルカを指さした。
「あれは水の四聖だろう?昨日、そう紹介されたぞ?」
「だから、あいつだって。一年以上一緒にいて、毎朝、剣の相手をしてるけど、俺が未だに一本も取ることが出来ない奴だ。」
「毎朝やってるのか?いいなぁ。俺も薬師修行するかな。」
「もう水の四聖になっちまったから、もう旅は無理じゃないかなぁ。色々あって楽しかったがな。」
「へえ、お前、暫く会わないうちにちょっと変わったなって思ってたけど、良い日々を送ってたんだな。」
「ああ。凄く。」
喋っているうちにアマーリエが戻ってきたので、男達もそれぞれ持ち場に戻って行った。
既に魔物はかなり倒しているので、相手戦力は魔族と魔神だろう。魔物がいない分、数は減っているが、敵は強い。
魔族一体でも簡単に倒せるものでは無い。
ダグリュール達、魔神は魔神を攻め、魔族は人間達で攻める事になった。もちろん魔法攻撃に対しては、ロルカを除く四聖が対応する。ロルカはダグリュールと共に、長を狙う。
急に辺りが暗くなり、空間が裂けた。
裂けたのではないかもしれないが、彼らにはそうしか見えなかった。
何も無かった場所に魔族とその背後に魔神が現れたのだ。
彼らは鬨の声を上げ、魔族に立ち向かって行った。
クシュカ達、飛竜には魔神が乗り、背後に控える魔神を直接攻撃する。
敵側の魔法で何人かが吹き飛ばされ、四聖が放つ魔法で、魔族が吹き飛ばされ、背後の魔神への道が作られる。しかし、その道を進むと、また別の魔神の攻撃に会い後退を強いられ、左右の魔族に襲いかかられる。
それでも倒れることなく、剣を古い、魔族を屠り、一歩でも前へ、一体でも多くと、膝をつきながらもまた、立ち上がる。
人間側は既に満身創痍だ。
「イヴァン、無理しないで!」
「今、無理しなくて、何時するんだ!くそっ!どんだけ居るんだよ!!」
アマーリエは攻撃しながら、同時にイヴァンに回復魔法をかける。既に魔力も尽きかけている。
トイスも魔族嫌いの底力で魔族を誰よりも多く倒しているが、もう倒した数も分からなくなっている。
時折、王都を振り向き、フロアティーナの結界が未だ磐石なのを確認すると、深呼吸して敵に向かっていった。
まだ王都は大丈夫。フロアティーナも大丈夫。バカ犬は中々良い拾い物だった。ちょっとだけ唇に微笑みが浮かぶ。
最前線で戦うロルカとダグリュール達が最も過酷だった。
魔神は首を斬らなければ倒せない。
魔法だけでは致命傷は負わせられない。
唯一ロルカのナイフは魔神に有効な武器だった。このナイフは魔神の体を刺し貫けば、その魂を吸い取ってくれる。
ナイフはロルカの手の中で剣へと姿を変える。体に水で結界を張りながら魔神に剣を振りかぶる。
魔神の攻撃は腕の一振すらまともに受ければ致命傷になる。
結界を張っても避けきれない攻撃は肌を裂き肉を抉る。
結界には治癒効果を与えているが、絶え間ない攻撃で傷が塞がる余地がない。
流れ続ける血で遠くなりそうな意識を無理やり引き戻し、襲いかかる魔神を倒す。
対する魔神もロルカを【器】と認識しているので、決定的な攻撃を行えないので、何とかなっているのだろうと言う皮肉な思いが胸を過ぎる。
ダグリュール達も奮戦しているが、既に半数は倒されている。魂まで失っているので、もう復活は望めない。人の死と同じだ。
双方の被害が大きくなった時、突然魔神側が姿を消した。
「ちっ。逃げられたか!」
ダグリュールは全身血まみれで、それでもしっかりと立ち、魔神が消えた空間を睨みつけていた。




