第37話 魔物暴発
ハロルド王国の王都に戻って半月。
その日、ロルカはフロアティーナと二人だけで四聖の引き継ぎの儀式を行った。
本来、大勢に囲まれて行う儀式なのに、立ち会う人はいない。トイス達もその場には居なかった。
見守るのは犬のランだけ。クシュカさえ、この場には居ない。
数日前から大陸のあちこちで、魔物が大量に発生し始めた。
トイスはガランティーア王国へ、イヴァンとアマーリエはヤクーシュ王国へ、それぞれ魔物の征伐に向かった。
クシュカは彼の地の竜を使役しに、トイスを乗せて向かった。
聖龍として、クシュカは竜族の頂点にある。ロルカと共に居たい気持ちを抑え、自分の力が最も発揮される国で強大な力を持つ同族を従えに行ったのだ。
そして、ハロルド王国を守るのは、ロルカとフロアティーナ。この状況でロルカには悩む余地はない。フロアティーナに頼んで、四聖の継承を受けることにした。
魔物の暴れ狂う様は、深刻で、トイス達も継承の儀を見守る余地も無かった。
ロルカとフロアティーナは向き合い、互いに前に差し出した両手をゆっくりと触れ合わせる。
お互いの指先からゆるゆると魔力が放出され、それが緩やかに光の帯を描きながら、絡み合うようにしてお互いの姿を包んでゆく。
二人が光の繭に包まれる。フロアティーナの硝子のように透明で、せせらぎのように優しい光が二人を包み、その後、ロルカの青空のように濃く青く、氷のように厳しい光が二人を包んだ後、光は徐々に二人の手のひらに吸い込まれていった。
膝から崩れるように倒れかかるフロアティーナを支え、ロルカはそっと抱き上げた彼女を彼女の部屋の長椅子に運んで横たえた。
「フロアティーナ様、大丈夫ですか?」
「ちょっと疲れただけです。大丈夫。もうあなたが水の四聖です。私に様は必要ありません。」
「すみません。慣れそうに無いので、もう暫くこのままで我慢して下さい。」
「仕方ないですね。ロルカ様、覚醒は無事にされましたか?」
「しました。少し戸惑っています。余りにも強くなった魔力に混乱しています。」
「そうですね。私もそうでした。あなたには申し訳ないのですが、今の私は一級薬師に戻っていて、とてもホッとしています。」
「王都の守り、あなたとランにお願いしても良いでしょうか?」
「おまかせ下さい。」
「俺は王国騎士団と共に、魔物の討伐に向かいます。」
「お願いします。」
ヤクーシュ王国に青竜ハモンと共に魔法陣を使って向かったイヴァンとアマーリエは、騎士団を率いてダボン汁を食べさせてくれた辺境の村に向かっていた。
魔物の群れは辺境の村を食い潰さんばかりに向かっていると情報が入っている。
あの村は魔物と戦う事に慣れているとは言うものの、今回の数は異常だ。とてもあの少ない人数で戦えるものでは無い。
「ハモン急いでくれ。騎士団が着くまで、私とイヴァンで彼らを守らなければならない。」
「アマーリエ、無理はするなよ。お前はハモンの上から魔法で攻撃してくれ。俺と村人は地上で戦う。」
「分かった。イヴァン、死なないで。私達はまだ結婚式もあげてないんだから。」
「死ぬもんか。俺の人生はまだまだこれからだ。さっさと魔物を片付けて、ロルカ達と魔神の長とやらも倒さなくちゃな!」
二人の見る先に、大きな網のようなものが広がっているのが見える。網を構えているのはあの村の村人達だ。
魔物達は兎に角、ただひたすら真っ直ぐに進んでいる。まるで何かに追い立てられているかのように。
進む先に人が罠を仕掛けていようと。
ギャギャギャャャャャ!!!
凄まじい声をあげながら、網に飛び込んだ魔物達は次々と白煙をあげながら、折り重なるように倒れて行く。
イヴァンとアマーリエが現れたのを見て、村人の顔に少し希望が見えた。
網を抜けて進む魔物はイヴァンが大剣を振り回して切り捨て、村人には土壁を立て、守る。
アマーリエは網の負担を減らすべく、突進してくる魔物に火魔法で攻撃する。
ヤクーシュ王国王都に向かう魔物は火の四聖マリオンと王都守護の騎士団で殲滅に向かった。
王都は四聖の守護が効いているので、魔物如きに蹂躙される事は無いが、近隣の街に被害が及ぶ可能性はある。
マリオンが立てた火の壁に魔物が飲み込まれていく。
魔物が焼かれる凄まじい匂いが辺り一面に広がるが、魔法耐性のある魔物は壁を抜けて尚も進行してくる。その進行してくる魔物は騎士団に倒されていった。
気力も体力も尽きそうになりながらも、朝から夜まで続いた魔物の進行は抑えた。
しかし、村人の網も破れてしまったので、すぐに第二波に備える準備が必要だ。 彼らは皆わかっているのだ。
これが魔神との戦いの前哨戦に過ぎないと言うことを。
ガランディーア王国でも魔物の進軍が起きていた。
前回の魔物との戦い以後、新たな魔法を編み出したグランは
カナーンに乗り、地上から持ち上げた土を巨大な岩に変えて、魔物の群れに投げ込んだ。
山地では効果が薄いが、今のような平地ならその効果は大きい。複数の魔物が次々と岩に潰されて倒れてゆく。
クシュカに乗ったトイスは風の刃を巨大な竜巻に変えて、魔物の群れに投げつける。風に触れた魔物は尽く切断されてゆく。
二人の力をしても魔物の数が多すぎて、殲滅は容易くはない。騎士達が振るう剣の音が絶え間なく響く中、クシュカに威圧され、従わされた野生の竜達の咆哮が響く。
竜達は巨大な牙と爪で戦うが、中には魔物に地面に引き摺られるものもあるが、竜使いの村から応援に来た竜に助けられている。
夕方には何とか殲滅し終わり、足元には延々と魔物の骸が並んだ。
「トイス、ハロルド王国は二人で大丈夫か?」
「二人は私の自慢の弟子だ。」
「しかし、こちらもこの戦力で精一杯だったぞ。」
「大丈夫。ロルカには、苦しくなったらアルマン様の父親に助けを求めろと言ってある。」
「アルマン様って、あの伝説の剣士か?」
「そうだ。」
「ロルカってアルマン様と知り合いだったのか?」
「そうか、お前は知らなかったな。ロルカはアルマン様に拾われて、育てられた魔神の【器】だ。そして、アルマン様の父親は魔神なんだ。」
「ちょっと待てトイス。お前、とんでもない事をサラッと今、言ったよな。まじかよ!」
「まあ、聞いた時は私達も驚いたな。でも、それでもロルカが私の弟子だと言うことは変わらないし、今頃は四聖の一人になっている事も予定通りだな。」
「お前、相変わらず見た目と違って図太いな。フロアティーナは知ってるのか?」
「もちろん。お前には話すのを忘れるが、フロアティーナには何でも隠さず全て話すに決まってるじゃないか。」
グランはトイスの満面の笑みを見て、声には出さずに、嫌な奴と思った。トイスはグランのしかめっ面を見て、更に楽しそうに笑う。
「お前が思う程、フロアティーナは繊細じゃないぞ。」
「どういう事だよ。」
「今までは四聖をしてるから大人しくしてるが、彼女は好奇心の塊だ。面白いと思えば、魔物を食べるのも躊躇しない女だ。」
「魔物?!そんな物食べれないだろう!」
「いや、ヤクーシュ王国で食べたが、美味かった。」
「俺は食べたくない!」
「アマーリエも美味いって食べてたけどなぁ。」
「俺に付き合わせるなよ。俺はお前達と違って常識人なんだ。」
「それに、フロアティーナのペットの犬は魔神だ。私がプレゼントしたんだけどね。」
「魔神がペットって怖すぎ。俺、フロアティーナを見る目が変わりそうだ。」
トイスは楽しそうに笑うと、立ち上がって体を伸ばした。
「さあ、帰って休もう。私達は魔神の長との戦いも控えてるからな。体力を整えないと。」
「そうだな。負けられないからなぁ。」




