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風の薬師  作者: ダイフク
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第34話 お願い事 (前編)

長くなってしまいましたので、前後編に分けさせて頂きました。


年明け後、しばらくしてトイス達は、久しぶりにハロルド王国に戻って来た。


トイス達は先日から妙なお願い事をされている。


町や村に着くと幼子からお願い事をされるようになった。それも、どこに行っても同じお願い事である。


「お兄さん、器を探しているの。ここから真っ直ぐ進んで欲しいの。」


進んで欲しいのは北の方向。幼子達はそのお願い事を伝えた後は全員何も覚えていなかった。


「なんだか嫌な感じですね。お師匠様。」

「そうだな。急ごう。目的地に着くまで、幼子は伝言を強いられるようだから。」


幼子達は、その伝言を伝えるまで起きていても意識がなく、寝る事も食べる事も出来なくなっていて、遅れれば命の心配もある。

何があろうと行くしか無いのだ。



【器】を探す魔神のラングラーは、実は周りの評価と異なり、かなりヘタレな小物だった。

「残虐」との高評価を受ける為、日々努力していた。【器】の側近を目指すのも前線で戦う必要が無いと思えばこそ。


ウサギタイプか、リスタイプの魔物を離れた場所から石を投げて殺し(魔神で力があるので例え石でも殺傷力があります)、そのまま動かないのを確認する事十数分。


動かない事を確認後、そっと近づき、剣で斬る。そして、血が着いたままの剣をぶら下げて魔窟に見せつけるように帰るのだ。


「あぁ、今日も良い暇つぶしができた。やはり人間を殺すのは楽しいなぁ。」


と、言いつつ、犬歯を見せつけながら笑う。


「お前は、また人間で遊んできたのか?相変わらず好きな奴だなぁ。昨日も殺したばかりだろう。」


仲間はその彼をさすがだなと、言いながら讃えてくれるのだ。

魔法も魔力量はあるのに魔力コントロールが出来ないので魔法も使えない。今更教えて欲しいとも言えなくなっている。

彼の見栄っ張りも、そろそろ限界が来ようとしている状況。


そんなラングラーは、【器】と直接対決するのは無理と考え、【器】に来てもらい、何とか説得をしようと思っている。もちろん、泣き落としも辞さないつもりだ。

【器】に長が入れば、今の記憶も無くなるのだから、彼がどんな恥ずかしい真似をしようと、誰にも知られる事も無い。


とりあえず、【器】が来る前に落とし穴を用意しようと、今日も朝から穴を掘っている。

魔法が使えれば簡単な落とし穴も、魔法の使えないラングラーにとっては肉体労働なのだ。


「はぁーっ。疲れたぁ。これぐらいでいいかなぁ?」


しかし、穴の深さはまだ50センチ程。自分でもまだ浅いとは思うが、もうぐったり。落ちなくても足を取られれば良いと思い返し、これでいい事にする。


幼子への暗示は口の固いごうつくババアに頼んでして貰っているので、後は待つだけ。

その暗示の対価は人の金だったので、小金のありそうな家に空き巣で入り、何とか支払いもできた。


「【器】が話のわかる優しい人だと良いなぁ。」


彼の待つ洞窟の外で人の気配がする。


「え?もう来たの?早過ぎない?でも嬉しいなぁ。【器】どんな人だろう。」


嬉しさがこみ上げるが、じっと我慢だ。身だしなみを整え、少し落とし穴から離れて、洞窟の奥に入る。


「お師匠様、どうやらここのようですね。」

「そうだな。気をつけて入るぞ。」


そして、ついに対峙。なんか体の大きい怖そうな人が一緒だが、先頭を歩いてくるのは、すごく綺麗で優しそうな人だ。大丈夫。きっと話せばわかってくれる。


「ようこそ。人間ども。このラングラーの招待に応じてくれて。待っていたぞ。」

「魔神か?」

「はっ、そうに決まっているだろう。お前たち弱い存在ではない。お前たちを支配できる存在だ。わかるか?」


――あぁ、駄目だ。こんな喋り方をしたら、一緒に着いてきてって頼み辛いのに・・・。でも、怖がって一緒に来てくれるかもしれないよね。


先頭の優しそうな人が、足元を見ている。やっぱり怖いのかな?

困ったような顔をしてこちらを向く。やっぱり怖がらせたかな?


「すまない。あなたが怖くて、私達はこれ以上足が動かない。あなたの声が聞きづらくて、もう少しこちらに来て貰えないだろうか?」


やっぱり優しい。困ったような顔が人の良さを感じる。大丈夫だ。これならウサギタイプの魔物より怖くない。

数歩前に進む。

そうすると、彼らは一歩下がってしまう。


「なんだ?近づいてやってるのに、逃げていくのか?」


ラングラーは嘲るような笑顔を浮かべる。

トイスは更に困ったような顔を浮かべ、


「すまない。怖くて体が勝手に下がってしまうのだ。もう少しこちらへ。」

「良いだろう。」


ラングラーはすっかり気を良くして、忘れてしまったのだ。朝からの努力の結晶。落とし穴の存在を。


ズボッ。


「あれ?」


「イヴァン、いまだ。」


――あれ?あれ?なんで?なんで俺は縛り上げられてるの?それにこれ、解けないんだけど。

見上げれば、あんなに優しく見えた男が凄く怖い笑顔で俺を見ながら、足で俺の頭を踏みつけてるってなんで?

この人、怖い。


「お師匠様、その足は退けてあげてはどうですか?それ、お師匠様が嫌いな魔族では無くて、魔神ですよ。」

「そうだな。だから?何?」

「トイスったら、そんな扱いをしたら、そいつも何も言えないんじゃない?なんだか怯えてるみたいよ。」

「そうですよ。お師匠様、そいつ震えてるし、このライラ開発の魔ロープで縛ってますから逃げれませんよ。」


トイスは舌打ちすると、ラングラーから足を離した。


――舌打ち?この人今舌打ちした?ヒィぃぃぃぃ。


「素直に答えれば、痛い思いはさせず、ひとおもいに殺してやるよ。」


――殺す?俺を殺すの?俺、何もしてないのに?酷くない?残酷じゃないの?人ってこんなに怖いもの?


「だから、トイス、なんでそんな事言うの。もぉ。完全にビビっちゃったじゃないの。」

「アマーリエ、相手は魔神だぞ?」

「それでも!」


ラングラーは縋るように優しい言葉を掛けてくれる気の強そうな女性に目を向けた。

その顔が小動物のようで、ちょっと絆されてしまうアマーリエ。


「アマーリエ、そんな奴に絆されてないでくれよぉ。」

「もう、イヴァンったら、あなたが一番ってわかってるでしょう?」

「だけど、そいつの筋肉も結構立派だし。」

「あなたの方がずっと素敵。」

「アマーリエ。」


ゴホン。と【器】の男が咳払いをする。


「イヴァン、お前、アマーリエと外に出てろよ。」

「ごめん。こいつの話聞きたいから、居させてくれ。」

「じゃあ、アマーリエから離れろ!」

「わかった。」


その時、ぶわっと魔力が膨らむのを感じ、慌ててトイスとロルカは身をかわしたが、逃げ遅れたアマーリエと彼女を守ろうとしたイヴァンはその魔力をもろに受け、昏倒した。


「何をした!!」


ラングラーの首筋にナイフを突きつけるロルカ。


「ご、ごめんなさい。お、俺、怖くて・・・。」

「だから、何をしたんだ!」

「ねむ、眠って・・・もらって・・・る、だけ。」


アマーリエ達の様子を見たトイスは頷き、魔神の言葉を肯定する。


「ロルカ、大丈夫だ。30分程で目が覚めるだろう。」


「では、魔神、お前に聞こうか?」

「な、何?」

「何故、我々をここに呼んだ?」


ラングラーの怖い人認定のトイスがかがみこんで聞くので、ラングラーは涙が出そうだ。これは正直に答えた方がいい場面だと思う。


「【器】を魔窟に連れて行こうと思って。」

「器とは?」

「え?こちらの方が【器】でしょ?違う?」


どうやら、ロルカの事を【器】と言っているらしい。

「お師匠様、器とは何なんでしょうか?」

「ふむ。器とは?」

「長様の新しい体の事でしょ?」

「なんで返事が疑問形なんだ。順を追って詳しく話せ。」


そして、ラングラーが話したのがこの話だった。


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