第3話 出会い
二人の出会い編です。前の話から一年半前の物語になります。まだロルカが剣士の頃の話です。
今から一年半前、王都では五年に一度の武術大会が催された。
王家主催の武術大会の一番の目玉賞品は【国渡りの許可】だ。
この大陸には3つの王国があり、それぞれの王国の自由往来は禁止されている。
往来できるのは【国渡りの許可】を持つものと、【薬師の証】をもつものに限られている。【国渡りの許可】を所持できるのは各王族と王家に認められた商人、王家に他王家に行く必要があると認められた貴族、そして、武術大会の優勝者に限定される。
大会には他王家の大会優勝者も参加を認められ、今年は昨年の優勝者を含め、三人の優勝者が参加している。彼らは余りに強い為、参加は準決勝からとなっていて、実質、この三人の優勝争いとの前評判だった。
なので、準決勝の残り一枠は予選から勝ち上がった強者であり、観客の関心はその一枠に入るのは誰かと言う事だった。
王国騎士団の嫡子、辺境伯の嫡子などの、前評判の高かった参加者を抑え、その一枠を獲得したのは、予想外の人物だった。
若干18才。前評判の高かった参加者に比べ、一回り体の小さい青年だった。しかし、柔らかな身のこなしと素早さ、的確に相手の隙を着く剣さばきが対戦相手を次々に倒してゆく様を観た観客は拍手喝采を贈った。
更に彼は準決勝で昨年の優勝者に一合も剣を交わす事無く、勝利を収め、その勢いのまま、史上最年少の大会優勝者となった。
『優勝! カーク・ギルマン!!!』
その日、その勇名は王国全土に広がった。
その夜、王都の片隅にある小さな酒場で一人酒を飲みながらカークは優勝の余韻に浸っていた。彼が少し気が緩んでいたとしても仕方がない。
彼が望んだのは優勝の名声ではなく、【国渡りの許可】であり、大陸全土を周って、探したいものがあった。それだけが望みで彼は自分を必死になって鍛えてきた。
その望みが叶った今、明日からの旅を前にし、日頃飲み慣れない酒が彼の警戒心を失わせていた。彼はコートの裏側につけた【国渡りの許可】に時々触れながら満足感に満たされていた。
「やぁ、いい剣を持っているね。」
気さくに話しかけてきた相手はちょっと胡散臭い程綺麗な男で、彼にとって警戒すべき相手には見えなかった。
人付き合いをした事の無い彼にとって、そんな風に気安く声を掛けられたのも初めてで、ちょっと楽しい気分になった。
「こんばんは。ありがとう。師範の形見なんだ。」
「へぇ、君は強そうだね。」
この男は彼が今日の優勝者とは気づいていないらしい。
「そうだな。強いよ。」
カークは自分が優勝者である事をちょっと自慢してもいいかなと思いながら笑みを浮かべた。
「そうか!じゃあ、私と勝負しよう!」
「だから俺は強いって!あなたでは勝てないと思う。」
「それなら構わないだろう?勝負しよう!」
自分が強いことを伝えても男は勝負をしたいと言い続けるので、カークはちょっと相手をしたらいいかな位の気持ちで、つい、言ってしまった。
「いいよ。」
「ありがとう。じゃあ、勝負の仕方は私が決めていいかい?」
多分、彼が剣を持ち、自分が素手でみたいなハンデを希望するんだろうと思ったが、カークは素手でも強い。
少しくらいハンデをあげるべきだなと思ったのでそれも了承した。
「構わない。」
「勝負に負けたものは勝ったものの言うことをひとつ聞くって言うのでどうだい?」
「わかった。」
店の外でたち合えばいいのか?と思いながら剣を持って立ち上がろうとすると、男に肩を抑えられた。
「?」
「さぁ、勝負だよ。ジャンケンをしよう!」
「????」
――ジャンケン?勝負???
「さぁ手を出して、ジャンケンボン!」
カークは混乱したまま、手を差し出され、そのままグーを出し、相手はパーを出した。
カークの頭の中は何がどうなっているのか理解できず、全然目の前の現実について行けない。
「わぁ、私の勝ちだね!」
「え?勝負って・・・。」
「今日から私のことをお師匠様と呼びなさい。ロルカ。」
「え?お師匠様?ロルカって誰?」
「お前の事だよ!今日からお前は私の弟子。私の言うことは絶対だ!」
カーク改めロルカが不運だったのは彼がとても真面目で誠実だったことだ。
こんな詐欺まがいの勝負でも負けたのは仕方がないと諦めてトイスの言いなりになる事を認めてしまった。
ただ一つ、自分がこの大陸の隅々まで行き、探したいものがあるとの要望をこの師匠となる男、トイスが認めてくれた事もある。
そして、優勝者カークの名前はその夜限り、大陸から消えることになった。
「あーぁ。今の俺なら、きっとあんな勝負は受けなかっただろうなぁ。」
ため息混じりに出会った頃のことを思い出し、ロルカは独り言を呟いた。
「お前が馬鹿だったんだよ!いい勉強になっただろう?それに私はとても優しい師匠だから、薬師の訓練までしてやってるじゃないか。私に言わせれば、今の幸せな立場に感謝して欲しい位だ!」
「お師匠様、意味がわかりません。」
「文句言う暇があったらもっと薬師の修行に励みなさい!お前ならもっと上の級になれるはずなんだから。」
「はいはい。来月王都に行くまでには、修行して昇級を目指します。」
「必ず昇級するように!」
二人は、今日はこの山を超えた所にある町を目指す予定にしている。今の場所から考えれば、夕方には着くだろう。
その町では変わった麺料理があるらしい。今夜はそれを食べるつもりだ。
考えるだけでも、とても美味しそうで、ロルカはこの旅が嫌では無いな、と思った。




